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門之倉 樟
門之倉 樟
novelistID. 45405
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二人の軌跡

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 アサトに複数のミサイルが迫っていた。彼は戦闘機へと変形してミサイルをギリギリまで引きつけながら、地表を目がけて加速させる。激突間際になり、機体の方向を変えて、地表スレスレを飛行。その急激な方向転換についていけずに、いくつかのミサイルが地面に激突して爆発した。
 残りのミサイルを迎撃するため人型形態となり、振り向きざまにガンポッドで残りを一つ残らず撃ち落とす。続けざまにガンポッド攻撃を貰い、すぐさま移動して、近場にある適当な岩場に隠れて攻撃をやり過ごす。
 影から顔を出して、ガンポッドで応戦する。弾が切れたのを見計らって奥に引っ込んだ。弾倉を交換し相手の攻撃音が止んだのを見計らい、一機に接近。
 ガンポッドを打ちながら援護としてミサイルを数発撃つ。今度はこちらが追いかける番だ。
 カルトは戦闘機になってガンポッドを回避。追いかけてくるミサイル。それをばら撒いたフレアで確実に防ぐ。
 アサトも、その光景をただ見ているだけではない。同じく戦闘機になって、相手の背後を取り、各種機銃を撃つ。その攻撃も上下左右に機体を巧みに傾けられて避けられた。
 カルトはアサトの攻撃と攻撃の合間を狙って、機体を右に少しだけ右に回る。変形し、そのままブースターとさきほどの慣性を使い右に大きく時計回りに旋回してアサトの背後を取る。その最中、すれ違いざまにガンポッドとミサイルを同時に発射する。
 アサトはフレアをばら撒いたあと百八十度方向転換した。急激な方向転換から襲い掛かる強烈なGに必死に耐える。ミサイルの爆発を隠れ蓑としてカルトに迫っていく。
 爆発の中から姿を現して、ガンポッドをカルト機に向けて攻撃をする。しかし、それも読まれていたのか悠々とかわされる。カルトも牽制として、同じくガンポッドを発射する。
 アサトとカルト、両者とも一歩も引かない攻防を繰り広げる。攻撃と回避のサイクルが絶えず変化する。
 機体の性能を限界まで引き出していく二人。前後左右、自由自在に機体を動かし、翼の向きや方向などの場所を変えて、攻撃を紙一重で回避など。それはもう、二人が華麗なダンスを踊っていると錯覚してしまうほどに。
 だがそんな、決着しそうにない戦いは、一人の乱入者によって唐突に終わりを告げる。
 アサト中尉にアンナ伍長のから通信が入った。
「気を付けてください。そちらに高速で接近する機影を確認。この速度は……ディノウやヴィンティウと互角以上です! 間もなく、姿を現します」
 その機体はカルトのヴィンティウに怒涛の攻撃をしてきた。カルトは咄嗟のことに、反応が完全には間に合わず、多少被弾したが、戦闘に支障はない。
 謎の機体が、人型形態へ変形して動きを止めた。その機体は別のカラーリングのディノウだった。アサトトカルトは相手の出方をじっと待つ。その機体から両方の機体に向けて通信が入った。
「カルト中尉、まだ彼と戦っていたのですか? ということは、あなたの復讐心もそこまでですね。アサト中尉、私が開発したディノウでそこまで苦戦するとは、どういうことですか。これではまるで奴が開発したヴィンティウに後れを取っているみたいではないですか」
 彼、ラグノフは二人をまるで豚でも見ているかのように小馬鹿にして言った。突如、彼の幼馴染であるスノウがこの会話に割り込んだ。
「やっぱり君なのか。この前やったテストの、あの状況を作り出したのは。それに、どうしてカルト中尉の機体に攻撃したんだ!」
「そう、あれをやったのは私。攻撃した理由はただひとつ。スノウ、君があれを作ったからだ。私はずっと、君と比べられて生きてきた。ろくなものじゃなかったよ。君が優秀なせいで、いつもいつも、誰も私を認めてくれなかった。汚いものでも見ているようにずっと見られてきた」
 彼は初めて、スノウに自分の心の闇をぶちまける。それにふれたスノウは彼がそんな扱い受けて、感じて、考え生きてきた断片を知り、言葉が出ない。
「だから私は、自分が認められるためにヴィンティウを、この私が作りだした最高の兵器ディノウと最高のこのAIと共に破壊する。カルト中尉には悪いですが、ここでその機体を破壊させてもらいます。アサト中尉、あなたはどこへでも消えてくれて構いませんよ」
 その言葉を最後に、カルトへの攻撃を再開した。カルトは自分が利用された怒りから、相手に一目散に突撃する。それをAIは的確に攻撃の着弾点を読み、華麗に回避する。逆に蓄積された彼のデータから癖を読み、ヴィンティウに攻撃を当てて、その攻撃によって機体のバランスを崩す。
 機体を持ち直したときには、目の前には無数のミサイルが迫っていた。もう――避けられない。そのとき、咄嗟にアサト機のディノウが前に出てきた。
 その光景を見た二人の人物は、今のアサトの姿が過去のある記憶と結びついた。
 一人はアンナ。その姿はかつて自分を救ってくれた英雄の姿。地獄にいる彼女に手を差し伸べてくれたあの人。
 もう一人はカルト。三年前、戦争が終結することになった最後の作戦。強い衝撃を受けて、意識が薄れゆく中で確かに見た。アサトの駆るオンザが前に立ちはだかって、今と同じように守ろうとしていた。そして、そのアサトを守ろうとして同じように前に出たバライク隊長のことも。
 アサトはガンポッドを構え、少しでもミサイルを撃ち落とそうとするが、いかんせん数が多く捌き切れない。
 カルトは全てを思い出した。バライク隊長を殺したのは自分自身で、アサトは守ってくれたことを。
 そして今、アサト・テクニカはあのときのバライク隊長と同じことをしようとしている。アサトはカルトにすべてを託して、自分は死んで楽になろうとしている。そのことを彼は決して許せるものではない。なぜなら彼にとって、アサト・テクニカはかけがえのない友だから。
 カルトは強引に機体の制御を取り戻した。身が潰れると感じるほどのGに耐えて。そしてすぐさま、アサトの横に移動してガンポッドでアサト共にミサイルを撃ち落とす。そして頃合いを見計らい両者ともに戦闘機に変形しフレアで完全に防ぎきった。
「アサト、今まですまなかったな。バライク隊長を殺したのはこの、俺だったのに……」
「カルト、お前!」
「一つだけ言っておく。お前一人で何もかも守れるなど自惚れるな。人間一人で守れるものは限られる。だから、俺を頼ってくれ。俺はお前の味方だ」
 その言葉を聞いて、アサトは心から救われているような気分になる。まるで教祖様から言葉を貰ったように。
「そうですよ。アサトさん。私も非力ながら協力します。だから、今はみんなで力を合わせてラグノフ技術者を助けましょう。相手の行動パターンをスノウ技術者と共に解析します。それまで持ち堪えてください。アサトさんならなんとかしてくれるって、私、信じていますから」
 アンナ伍長、スノウ。彼らが自分に協力してくれる。それはいつも一人で仲間を、カルトを守ろうとしていたアサトにとって初めてのことだった。いつの間にか、こんな素晴らしい仲間たちがいた。
 フェイスウィンドウで仲間たちがアサトを真剣なまなざしで見つめる。彼はその仲間たちの機体に応えた。
作品名:二人の軌跡 作家名:門之倉 樟