レゾンデートル2
ユーリがはっと目を覚ました場所は、電脳世界『ロレンツ』の受付場所『ラグニクス』のカウンター席に座っていた。
目の前には、シェーカーを振っているラグナスがいた。
辺りを見回すと仮面を付けている人や付けていない人が数人いる。手帳を確認している人やカクテルを飲んでいる人、談話している人達がいる。そのほとんどが20、30代の男女である。
昨日は時間が時間だったため誰もいなかったが、今の状況を見て意外と人で賑わっているなと思った。
ラグナスはシェーカーから出来上がったオレンジ色のカクテルをカクテルグラスに注ぎ、それを一気飲みした。
「今回のミッションは、、、スティール!」
「スティール!?盗みじゃねえか!」
ユーリに指を差しながらスティールと囁くラグナスに思わずカウンターを両手でたたき立ち上がった。
「盗みと言っても犯罪じゃない安心しろ。実は、このコレクションブックにある名画そろわないんだ。なぜだか知らないが、みんなこのミッションを断るんだ。」
「それは、危険だからじゃないのか。」
「報酬は、10万円だからみんな食いつくと思ったんだけどな。ゲームオーバーする人が3分の2。リタイアする人が3分の1.」
左指で3。右指で2と1を作るラグナスは苦笑いをしながら言った。
ゲームオーバー。それは、ゲーム内で「死」を意味すること。とは言っても現実世界への強制帰還である。ミッション料と同じ金額を支払ってもらうという『レゾンデートル』にとって、ゲーム内で一番起こしたくない行動である。
ラグナスは、右指をパチンと鳴らすと空中にぶ厚い本が現れた。
ラグナスが本のページをめくり進めるたびに眉間に皺を寄せ、時には舌打ちをしていた。それから、めくるスピードがあがり、本をパタンと閉じ溜息をした。
「やってくれるよね。」
「なんで新米、新人、初心者の俺が!死亡フラグMAXの危険なことに首を突っ込まなきゃいけないんだよ!10万根こそぎ持っていかれるのが落ちだよ。」
頬杖をつき、足を組み、座り直したユーリと同時に大きな音を立てて、『ラグニクス』の両扉が開いた。しかし勢い余った開け方をしてしまったため、扉が閉まってしまった。外では、小さな悲鳴が聞こえた。