ねとげ~たいむ
私達は封印の洞窟の場所へ向かった。
地図に私達のパラディスから西に進んだ森の中だった。
ここは以前『森のゴブリン退治』で訪れた事のある森だった。
封印の洞窟はこの森をさらに奥へ進んだ所にある、以前は進む事の出来なかった場所が切り開かれて新たな道が作られていた。
「ったく、ホントに何でアタシ達が…… ブツブツ」
「まだ言ってるよ」
「まぁ、正論ではあるけどね」
珍しくレミが賛成した。
私達は言わば王国に登録されている冒険者であり、傭兵でも暗殺者でも兵士ですらない、言わばアルバイトと同じだ。
するとレイさんが尋ねて来た。
「そう言えば皆さん、psrt time jobしてるでありんすか?」
「ぱ? ぱぁとた? 何それ?」
「アルバイトの事よ」
頭に『?』マークが浮かんだエミルにレミが説明する。
「それがどうしたの?」
私は尋ねる。
「いや、ワチキもjapanの勉強ためにlook・forしようとしてるのでありんすが、中々見つからなくて」
「そうなんだ。偉いじゃない」
「レイって、どんなバイトがやりたいの?」
「いや、これと言ってやりたいのがある訳じゃ無いのですが……」
「普通に英語でも教えたら? 普通に英語喋ってりゃお金も貰えて楽勝じゃん」
「エミル、そんな無責任な……」
「センリ、アンタはバイトしてたっけ?」
「一応してる」
「へぇ、どんなバイト?」
「ファミレスのウェイトレス」
私達はそれを聞いて固まった。
するとセンリは首を傾けた。
「何?」
「べ、別に…… 良いんじゃない?」
私の声が裏返った。
センリの中の人がどんなのか知らないけど、もし今のアバターみたいに無表情で『古人曰く○○○』とか言われたらお客も固まって動けなくなるだろう。
センリは私達を見て首を傾げるとレミは眉を吊り上げながら忌々しそうにため息を零した。
「でもバイトするなら慎重に選んだ方が良いわよ」
「レミ?」
「いや、私…… 以前コンビニでバイトした事があるんだけどね、そこの店長が凄く嫌味な奴でさ…… 他の店員も散々泣かされて何人も辞めちゃってるのよ」
「ああ、そうか、そう言う人いるよね」
私は顔を曇らせた。
良くニュースで見かける、上司や消費者だと言う事をかかげてのやりたい放題、部下を家畜や奴隷としか思っておらず、殴ったり怒鳴ったりのパワー・ハラスメントや、残業をしてもロクな賃金を出さず、あまつさえ残業手当を出さずに『それがプロってもんだ』とか『仕事なら当たり前だ』と言って開き直る者もいる。
それで自分から辞めさせるならまだ良い、さっさと新しいバイトを探せば良いだけだ。
でも中には仕事の失敗や人の弱みに付け込む…… 早い話しが脅迫して辞めさせず、正社員にしてしまう上司もいる。
さっきも言った通りアルバイトは仕事に協力はしても従う必要は無い、そりゃ子供の頃からの夢で本気でいつか店を持つ為とか店長になりたいって言うなら話は別だけど、ただのその場しのぎや適当に選んだだけの場合なら別に無理に働く必要は無い。
レミはさっき『以前』と言ってたからやめられたんだろうけど。
「レミ…… 大変だったね」
「いや、大変だったのはその店長の方かな……」
「どうして?」
「いや、ちょっと…… 店長に怒鳴られてた所に偶然ウチの若い連中がいてさ」
「……何があったの?」
私は顔を顰めた。
「コロナはバイトとかしないの?」
「私? 無理よ、ウチの学校バイト禁止だから」
「そうなの? 高校生になったらバイトできんじゃないの?」
「ああ、そうか…… そう言うイメージあるよね」
それは以前私も思っていた。
良く漫画やアニメとかで高校生がバイトをしてるのを視る、中学生でも出来ない訳じゃないみたいだけど…… 現実私が入学してバイト禁止って聞いた時はちょっとだけショックだった。
ただお姉ちゃんの部活の仲間でパーティの1人に大家族の人がいて、その人は許可を貰ってバイトをしてるらしい。
「いっそこっちが現実になってくれれば良いよね〜、モンスターぶっ倒すだけで楽に金稼げんだからあっと言う間にお金持ち〜」
「その分大変だと思うよ、ゲームだとそりゃ簡単にお金を貯められるけど…… 現実じゃそうは上手くいかないよ」
大きく両手を振るうエミルに私は苦笑して答える。
確かにゲームだと買うのは武具やアイテムだけだけど、それが現実だった場合その分儲けたお金は別の事に消えて行く…… それは武具だけじゃなくて移動手段や生活費、怪我でもしようものなら入院費もかかるし、下手すれば命に関わる。
危ない事して一角千金稼ぐより地道にバイトして貯金した方がメリットは高い。
私の意見にはレミとセンリも賛成みたいだった。
「アンタはまだガキだから分かんないだろうけど、1円稼ぐの大変なのよ」
「古人曰く『辛抱する木に金がなる』、人間地道に稼ぐのが1番よ」
「oh、お二方のwordの方が為になるでありんす!」
レイさんはポンと両手を合わせた。
するとエミルが両肩を落としながら深くため息を零した。
「はぁ、でもさぁ、折角の樹海なんだし……
ゴーレムじゃ無くて埋蔵金でも埋まっててくれないかなぁ」
「埋蔵金?」
「そうそう、この前テレビでやってたの、次の日裏庭掘り返してたらお母さんに怒られちゃった」
「そりゃ当然だよ、『花咲か爺さん』じゃあるまいし……」
「えっ? 裏庭掘り返すのって『浦島太郎』じゃなかったっけ?」
「……浦島太郎は海だよ」
私は顔を顰めた。
するとレイさんが自分の胸に手を当てた。
「treasureでありましたら、ワチキのanalyzeが役に立つありんすよ」
「レイ、FPの無駄遣いすんじゃないわよ」
「レミの言う通り、古人曰く『大事は小事より起こる』…… 盗賊は色々活躍する、余計な事をしてFPが無くなったら大変だから辞めた方が良い」
「ええっ、良いじゃん別に〜、樹海なら埋蔵金だよ〜」
「ゲームだから出て来る訳無いでしょう、大体樹海に埋めるって言ったら埋蔵金じゃなくて死体…… あっ!」
レミは両肩をビクつかせた。
そして油の切れたかカラクリ人形の様に首を動かしながら私達の顔を見回した。
私達の間に刹那の沈黙が走ると我に返ったレミが咳払いしながら歩き出した。
数歩進むとレミは180度回転して私達の方を見ながらわざとらしく陽気に振る舞った。
「ホ、ホラホラ…… 時間がもったいないわ、早く行くわよ!」
レミは再び背を向けて歩き出した。
「レミサン、cadaverがどうとかいっておりましたが……」
「き、聞き間違いだよ…… 多分」
とりあえずフォローは入れておこう。
私はレイさんに言っておいた。