ねとげ~たいむ
今回私達が受けたクエストは討伐『暗黒の魔宮』だった。
北西の山脈付近で古代遺跡が発見された。
様子からして大昔の処刑場だったらしく、アンデットが湧きだしているので倒して着て欲しいと言う依頼だった。
しかしみんな部活や旅行など予定が入っているので全員と言う訳にはいかず…… 私、お姉ちゃん、レイさん、センリ、サリアさんの5人となった。
「僧侶がいないのがきついね」
私は心残りだった。
レミとホイップ君がいないのは少々心細かった。
前にもアンデット系の敵キャラと戦った事はあった。
レミは知らなかったけど、回復魔法はアンデット達にとって有効な魔法だった。
するとお姉ちゃん達が言って来た。
「大丈夫でしょう、皆属性付きの武器持ってるし、それに魔法ならセンリさんがいるじゃない」
お姉ちゃんは自分のメインであるアイス・ソードを見せた。
みんなもそれぞれの武器を見せてくれた。
センリは雷鳥の杖、サリアさんはパピヨン・フェザー、だけどレイさんが出したのは切っ先から柄までが真っ黒の忍者刀を思わせる片手剣『ブラック・セイバー』だった。
「これって……」
「え、ダメで…… ありんすか?」
「いや、別に…… そう言う訳じゃないけど」
私は右手を振るった。
別にこれは属性が付いていない訳じゃない、だけど問題は今回の敵がアンデットと言う事だった。
決して倒せない訳じゃない、ただ彼女の武器は闇属性で、アンデットは闇属性の為に効果は薄かった。
「レイさん、他の武器って無いの?」
「ある事にはありますが……」
レイさんは他の武器を見せてくれた。
だけど持っているのは小さな十字型の手裏剣『ダーク・エッジ』、黒い刀身の鎖鎌『シャドウ・ハーケン』と言う、いずれにしろ闇属性の武器ばかりだった。
「貴女、よくここまで来れましたわね」
「一度もアンデットと戦わなかったの?」
私は尋ねる。
冷静に考えてアンデット・モンスターと戦わないなんてありえない、獣系や鳥獣系、水棲系の生物がメインのクエストでもアンデットは登場するからだ。
勿論アンデット以外の闇属性以外のモンスターも存在する。
いくらなんでも闇属性だけなのは効率が悪すぎる。
「ワチキはshadowの者、daekな武器を持つのは当然でありんす」
まるでショコラさんみたいな言い方だった。
でも彼女はどっちかとエミルとショコラさんの中間的存在の人だ。
「私の武器貸してあげようか? 一応ファイア・ダガーの予備があるけど」
お姉ちゃんはファイア・ダガーを差し出す。
するとレイさんは手を振って断った。
「ノン、ノン、そんなのは不要でありんす、ワチキにはワチキのこだわりがありんす」
(本当に大丈夫かな?)
私は思った。
それから遺跡に入った。
石を切って造られた天井と床、それを支える石柱、ゲームとは言え薄暗いダンジョンはいかにも何か出そうな不意息を出していた。
前にも言ったけどホラー系は苦手だ。
「そう言えばアンタ大丈夫? こう言ったの苦手じゃ無かった?」
お姉ちゃんが言って来た。
するとセンリも思い出した。
「前にも言ってた。ホラーが苦手だって」
「そうですよ、子供の頃なんか『恐いから一緒に寝て』って、私のベットの中に潜り込んで来たんですよ」
「お、お姉ちゃんっ!」
「えっ、そうなんですの? なら住所さえ教えていただければ私もベットの中で……」
「い、いや…… 別に我慢できない訳じゃないから」
色々な意味で幽霊より彼女の方が恐かった。
そんな話をしていると敵さんのお出ましだった。
案の定アンデット・モンスターや闇属性モンスターが続々と登場した。
鎧や兜を武装し、斧と盾で武装したスケルトン・マンのスケルトン・ナイト。
悪霊となって凶暴化したレイスのパワーアップ版スぺクター。
闇の中から襲いかかって来る黒い皮膚に眼が無い、大きな口に牙が並び、4つの足で這いずりまわるシャドウ・ハイカーなどが襲いかかって来た。
私達は力を合わせてこれらを撃退する、ここまではいつもと同じだ。でも……
「yaaa!」
レイさんの逆手に構えたブラック・セイバーがモンスターを攻撃した。
全身黒い光沢を放つ甲殻に身を包み、頭は黒山羊、背中には蝙蝠の様な翼が生えた3本爪の腕と足の魔獣レッサー・デーモンを攻撃した。
だけど固い甲殻に邪魔され、さらに闇属性の攻撃と言う事であまりダメージを与えられなかった。
レッサー・デーモンは悪魔モンスターの中でも結構下の方で、相当油断しなければ簡単に倒す事が出来る、でもレイさんは武器の属性上半分以下のダメージしか与える事が出来ない。
私はスケルトン・ナイトを倒すとレイさんに向かって叫んだ。
「レイさん! 手伝います!」
でもレイさんは諦めなかった。
「ご心配はno・problemでありんす!」
そう言いながら攻撃を続けた。
私なら2ターンで倒せるモンスターを7ターンがかりで倒した。
でもいくらなんでもターンがかかりすぎた。
盗賊は戦士・武闘家と並び物理攻撃に優れた職業だ。
もちろん戦士や武闘家の方が上だけど、それでも下級職の中では攻撃力は高い。
でも戦いが長引いたのには訳があった。
「どうでありんすか!」
そう言いながら取り出したのは闇属性のアイテムばかりだった。
ダーク・トパーズ、魔獣の生き血、黄金の骨など目の前に差し出された。
「これ集める為に時間かかってたの?」
「yes! ワチキはthiefでありんすから、お宝getは当たり前でありんす」
「結構良いアイテム手に入れたのね」
「ワチキのskillのおかげでありんす」
レイさんはそう言いながら自分のステータスを開いた。
そして技コマンドを開くとそこには『steal』(盗む)と言うコマンドが存在した。
RPGに出て来る盗賊キャラはアイテムを持つ敵モンスターからアイテムを奪う事が出来る、それはレイさんも同じ(失敗する事もあるけど)で、アイテムを取る事にしているらしい。
するとレイさんが言って来た。
「良かったら皆サマのお宝もgetしておくでありんすよ、お近づきの証しにpresentでありんす」
そう言いながらレイさんは私達にお宝を手渡した。
何も戦う事が全てじゃ無い、お宝回収もRPGの基本中の基本だ。
レイさんが仲間になってくれれば必要な武器やアイテムを揃える度に慌てて錬金素材を取りに行く必要は無い。
するとお姉ちゃんが言って来た。
「まぁ、戦闘は私達がやれば良いだけだしね」
「レイはレイの好きなようにやれば良い」
「そんな事ありやせん、ワチキの実力もいずれお見せするでありんす」
「それが出来れば良いんですけどね」
サリアさんは両手を上げた。
まだ彼女だけはレイさんを認めて無いみたいだった。