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ねとげ~たいむ

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クエスト9,砂城の竜



 夏休みも中盤となった。
 私はお盆休みに田舎に帰省し、お爺ちゃん達にパソコンのお礼を言った。
 お正月以来久しぶりに会った従兄妹達とも思い切り遊び、家に帰って来て数日後の事だった。

 私は久しぶりにパソコンの電源を入れてオンライン・キングダムにログインし、皆と再会した。
「ホント、毎日毎日大変だよ〜」
 エミルは苦悶した。
 ソフト部と家の仕事の手伝いで大変らしい。
「それに宿題もあるから、夏休み殆ど遊べてないよ」
「どうせ何1つやってないんじゃないの? アンタの事だから夏休み最終日になってドタバタするタイプね」
「そんな事した事無いよ、全部お兄ちゃんにやって貰ってるんだから」
 お兄さん可哀想に……
 私のお姉ちゃんはいつもダラけてるか遊んでばっかのクセに宿題はいつも終わってた。
「レミだって、どうせ1人で寂しい夏休み送ってたんでしょ? いきおくれになっちゃうんじゃない?」
「おい、どういう意味だ?」
 レミの背後からどす黒いオーラが出ていた。
 見ると私達を含めた周囲のユーザー達も何事かと怯えていた。
「そ、そんな事より早くクエスト受けようよ、何か夏限定のクエストやってるみたいだよ」
 私は場を宥める。
 実は家に帰って来て起ちあげたパソコンにオンライン・キングダム制作会社からメールが届いていた。
 何でも8月13日から8月31日まで期間限定の特別クエストが配信されるとの事だった。詳しい事は配信所で聞く事が出来るらしい。
 私達はクエスト配信所へ向かった。

 クエスト発注所。
 私はカウンターのお姉さんに話した。
「えっ、5人?」
 私は首を傾げた。
 内容はどんなのか分からないけど、夏季限定クエストは5人1組で行う物らしい。
 だけど私達は4人なのでこのクエストを受ける事が出来なかった。
「正直楽しみだったんだけどな……」
 私は肩を落とした。
 するとエミルが言って来た。
「だったら適当に頼めばいいじゃん、気に食わないけどショコラにでも頼む?」
「無理よ、ホイップ君がいるでしょう、サリアにでも頼んだら?」
「わ、悪い人じゃないんだけど……」
 正直あの人は苦手だ。
 さっきパソコンのメールボックスを開いた時ゾッとなった。
 何しろサリアさんからのメールでびっしりと埋めつくされていた。しかも……
『今表を小学生3人が通りましたわ』
『今テレビを見てましたわ』
『今日のおやつはアイスクリーム(ツナ・サーモン・納豆・ミント・チョコレート味)でしたの』
 とか、本当にどうでもいいようなメールが数分置きに送られていた。
 って言うかツナ・サーモン・納豆・ミント・チョコレート味のアイスってどんな味? 私は想像するだけでも嫌だった。
 あと私の知り合いって言ったらセナさんくらいなもんだけど、アドレスを聞いてなかった。
「残りの1人は後で考えるとして、とりあえずクエスト受けない?」
「古人曰く『明日は明日の風が吹く』」
 それはちょっと違うかも……
 そんな事を考えながら私達は一般クエストを受ける事にした。

 今回受けたのは『幻影の街』だった。
 この街の東には大きな砂漠があった。
 照り続ける灼熱の太陽、動く物の影すらない死の砂の大地、しかし砂漠にはかつて文明があった。
 人々は疫病で死に絶え、さらに立て続けに起こった異常干ばつにより国は滅び、砂に埋もれたと言う。 
 私達はその砂漠に足を踏み入れた。
「砂漠〜♪ 砂漠〜♪ どこを見ても砂ばかりぃ〜♪」
 そりゃ当り前だ。
 エミルは変な歌を口ずさみながらスキップをしていた。
「普通砂漠は夜歩く物、昼間に歩くのは自殺行為」
「細かい事気にしないの、本当はエアコン効いてる部屋でやってるんだから」
「アタシの家、エアコン無い〜」
 エミルは現在、扇風機(首振り無し)で当ててるらしい。
「私も、お金が無いから扇風機着けてる、古人曰く『使わぬ金は減らない』」
「そんなのウソだよ、お金なんていつか無くなっちゃうよ」
 エミルは否定する。
 確かにお金貯めそうに無いからなぁ、私も人の事は言えないけど……
「今度のダンジョンはどう行ったら良いのかしら? センリ知らない?」
「……さぁ」
 センリは首を左右に振る。
 センリは以前にもこの砂漠のエリアに来た事があるのだけど、あの時は錬金素材のアイテムを探し出すだけで古代遺跡には入った事が無いと言う。
 実際私達が持っている砂漠エリアのマップにも行くべき場所である古代遺跡の場所が無かった。一体どうやって行ったら良いのか分からなかった。
「古代遺跡の設定、絶対後からつけたしたね」
「マンガでも良くみかけるよ、テコ入れ……って言うんだっけ?」
「そ〜そ〜、ギャグ漫画で始まって売れないからって無理やりバトル漫画に持ち込むって奴? だったら最初からバトル漫画にしろっての」
「エミル、好きな作品は人それぞれだよ、それに何がウケるかなんて誰にも予測できないんだから」
「コロナ、ヤケに詳しいね」
「ほら、私文芸部だったから」
 私は説明する。
 かつて話した事だけど、私は中学時代文芸部員で、その時に1人の女の子と知り合った際に女の子から聞いた事だった。
 その子は小学校から書いていて、クラスの子達に漫画にしろ小説にしろ、創作は言わば作る博打の様な物らしい。
 周囲に合わせて苦手な物(たとえばバトル物が得意な物に恋愛物を書かすなど)を書けば良いと言う物でも無いとも言って来た。
「好きでも無い事をやるなんて辛いだけだってさ…… その子も教えてもらった事らしいんだけどね」
「その子良い事言うね、アタシも好きでも無い勉強やらされてんだから、どっちかって言うと被害者だよ」
「そ、それはちょっと違うような……」
「ちょっとじゃ無くて全然違うわよ」
 エミルは目を細めながら言った。
 ため息を零すとこの電脳世界の砂漠を見ながら呟いた。
「ま、こうして歩いてりゃどうにかなるでしょ」
「古人曰く『犬も歩けば棒に当たる』」
 私達はさらに先を急いだ。
作品名:ねとげ~たいむ 作家名:kazuyuki