ねとげ~たいむ
私達は街に戻ってくるとサリアさんを問い詰めた。
サリアさんもさすがに何も言い返せず、首を項垂れていた。
「冗談じゃないわよ! とっとと管理局に連絡するべきよ!」
事情を知ったエミルは目を吊り上げて叫ぶ。
私もそう思ったけど、このまま連絡して良いのだろうか?
誰だって出来心で悪い事をしてしまう事はあるだろう、私にもある。
小学生の頃に家に遊びに来た友達が持って来た着せ変え人形が羨ましくなり、少し借りようとしたが断られて人形の取り合いになって服を破いてしまい、その子を泣かせてしまった事があった。
幸い母が服を縫い直してくれて、直ぐに謝ったからその子も許してくれたけど、それでも私の中に苦い思い出として残っている。
その事を思い出していると……
「コロナ、アンタが選びなさい」
「えっ?」
「アンタが選んだ事なら私達は文句は言わないわよ」
「……私もそれで良い」
センリも言って来た。
(と言ってもなぁ……)
私はサリアさんを見る。
サリアさんは私と目を合わそうとしなかった。
確かに私が逆の立場ならそうするだろう、謝罪と言う行為はかなり勇気がいる。
「覚悟は…… 出来てます」
サリアさんは消えそうな声で言って来る。
確かに悪いのは彼女だけど、何だかさすがに可哀想になって来た。
「じゃあ…… 許します」
「えっ?」
「ちょっとコロナ! 何よそれ! 正々防衛なんだからぶちのめした後に管理局に引き渡すってのが妥当でしょ!」
「それを言うなら正当防衛、ってかそれじゃ過剰防衛よ」
レミはエミルに言う。
私だってこれで良いのか分からない、だけどこのまま大好きな人といられなくなるのは誰だって嫌だろう。
「だけど約束して、絶対こんな事をしないって」
「コ、コロナさん……」
「それができるなら、私は許します」
「うっ、ううっ……」
サリアさんは泣きだした。
何でアバターが泣くのかと言うツッコミは無しだけど、やっぱりこれがベストだろう。
「古人曰く、『罪を憎んで人を憎まず』…… それで良いの?」
センリは私を見る。
片やサリアさんは小さく身を振るわせた。
「コ、コ……」
「ん?」
「コロナ姉さまぁ〜〜」
突然サリアさんは両手を広げると私に抱きついて来た。
「はあっ? えええっ?」
突然の事に私は頭の中が真っ白になった。
今のサリアさんは、何と言うか…… 少女マンガのヒロインの様に目を輝かせていた。
「私、今本当に愛すべき人が分かりましたわ。妥協を許さない粛清の女神であるレミ姉さまも素敵ですけど、身を呈して私を庇ってくれた慈愛の女神のコロナ姉さまこそ理想の人ですわ」
「しゅ、粛清の女神って……」
レミの事をそんな風に見てたの?
きっと彼女の中じゃレミは鞭を持った女王様の様に映ってたのだろう、私には時々鬼か死神に見える……
「さぁ姉さま、愛の最強のコンビ結成ですわぁ〜」
サリアさんは私の肩に手を回すと明後日の方を見ながら甲子園を目指す父親のようにバーチャルの空を指差した。
「ちょ、サリアさん、私はね……」
「もう離しませんわぁ〜」
「離して〜〜〜っ!」
仲間達が呆然と立ち尽くす中、私の叫びが木霊した。