ねとげ~たいむ
レミとサリアは先を急いだ。
立ちふさがるシザー・アント達を倒しながらついに2人は洞窟の最深部までやって来た。
今まで以上に巨大なフロアに緑色に輝く鉱石が露出し、淡い光を放っていた。それがガイアの恵だった。
そのフロアに陣取る1匹の巨大なシザー・アントがいた。
通常の5倍の大きさで、背中には無数の鋭い棘が生えたモンスターの名前が表示される。
『Q(クイーン)シザー・アント』
シザー・アント達の親玉である女王蟻のモンスターは自分の巣に迷い込んだ侵入者に牙を向いた。
『ギシャアアアァァァ―――っ!』
「こりゃまたすごいのが……」
「心配いりませんわ、私がいますから」
サリアはパピヨン・フェザーを構えて突進する。
Qシザー・アントは4本の顎を大きく開くと通常とは桁外れの蟻酸を吐きだした。
雑魚のシザー・アントは1人しか防御力を減らす事は出来ないが、Qシザー・アントは複数同時に行う事が出来る。
「フル・ガードッ!」
レミは防御力強化魔法を唱えた。
ここまで来る間に散々戦って来た為に蟻酸の対処の仕方が分かった。
「下がったら上げるだけよ!」
レミ達が蟻酸を浴びて『DOWN』の文字が浮かび上がると、それに変わるように次の瞬間に『UP』の文字が浮かび防御力が戻った。
その瞬間にサリアがQシザー・アントに向かって飛びかかった。
「飛翔扇ッ!」
2つの鉄扇がブーメランのように飛んで行き、Qシザー・アントにヒットした。
『ギャアアア―――っ!』
Qシザー・アントは大きく身を仰け反らせて激痛に苦しむ。
その瞬間を狙ってレミは魔法を唱えた。それは相手の防御力を減らす『ブレイク・ダウン』の魔法だった。
「今度はアンタがくらいな!」
レミの足元に金色の魔法陣が浮かび、手をかざすと光が集まりQシザー・アント目がけて放たれた。
敵モンスターに『DОWN』の文字が浮かび、防御力が下がった。
「あと頼むわ」
「はいっ!」
サリアはパピヨン・フェザーを構えるとQシザー・アントに必殺技を放った。
「回転戦舞っ!」
回転する事自体はコロナやセンリ達と同じだが、前回のは周囲にいる敵全てを薙ぎ払う物、しかし今回のは1対1ようの回転斬りだった。
まるで電動ノコギリのように回転しながら斬りかかり、Qシザー・アントにダメージを与えた。
『ギャアアアア―――――ッ!』
防御力の低下に伴い受けたダメージも大きな物となり、Qシザー・アントは苦しんだ。
「あと少し……」
と、レミが思った時だった。
突然背後の岩壁が爆発した。
土煙の中から現れたのはもう1体のQシザー・アントだった。
「なっ?」
すぐ側にいたレミは目を丸くしながら驚いた。
しかも身構える間もなくQシザー・アントは口を開いて黄色い蟻酸を吐きだした。
「うあっ!」
レミは頭から蟻酸を浴びた。
しかしこの蟻酸は浴びても防御力は減る事が無かった。しかしレミのステータスに童話に出て来る魔女が持つ杖に×印が描かれた様なマークが現れた。
これは魔法封じのマークだった。これが表示されている間は魔法を使う事が出来ない。
「くっ!」
「お姉さま! このぉ……」
サリアが身を翻した瞬間だった。
天井が音を立てて崩れるともう1体Qシザー・アントが降って来た。
「ボ、ボスが3体?」
さすがのサリアも顔を強張らせた。
いくらレベルが高くともボスを3体同時に相手に出来る訳が無かった。
それぞれ自分達の前に現れた順に区別がつくように画面にQシザー・アントにA・B・Cと表示された。
「不味いわね……」
レミは舌打ちをする。
状況は圧倒的に不利となった。
Qシザー・アントは3体、しかもレミは魔法…… 特に回復が出来ない、長引けば長引くほど不利になる。
しかも最悪な状況はまだ続く、Qシザー・アントは卵を産みだすとその卵がたちまち孵化し、シザー・アントが現れた。
「せめてコロナだけでもいればなぁ……」
「そんな、お姉さまには私が……」
「そりゃ分かってるよ、だけど……」
レミはモンスターを見る。
これだけ圧倒的な数を相手にするには2人だけじゃ手に余る。
「お姉さまは…… 私が守るんだから! だからあんな事まで……」
「あんな事?」
「え? あっ……」
サリアは口ごもるとレミから目を反らした。
レミはさっきからサリアが何かを隠している事は分かっていた。
ここに来る途中仲間の話をした事があった。エミルやセンリの事を話してもあまり興味無さそうに目を背けたりするだけだったが、コロナの名が出て来る度に何やら怯えたような顔になっていた。
「アンタ、コロナに何か……」
レミは尋ねる。
何かあると思っていた。いずれこのクエストが終わったら聞こうと思っていた。
「わ、私……」
サリアのパピヨン・フェザーを持つ手が震え始めた。
恐怖と罪悪感にかられてコロナの手を離して崖から落としてしまった事を話そうとした。
しかしその時、シザー・アント達が一斉に襲い掛かった。