ねとげ~たいむ
私達はクエスト受注所へやって来た。
そして新しく更新されたクエストを閲覧する。
「どれにする?」
「そうね、最近狩猟ばっかりだったからね、たまには採取も良いんじゃない?」
「ええっ? やっぱこれでしょ!」
更新されたクエストは採取が3つと狩猟が2つだった。
その内エミルが差したのは狩猟の『疾風の谷の翼竜』、早い話がワイバーン退治だった。
「サリアはどれがいいの?」
「えっ、私?」
レミはサリアさんに尋ねた。
確かにサリアさんはお客な訳だし、今回は彼女が選んでもいいだろう。
「ああ、じゃあコレで……」
サリアさんは1つの項目を指差した。
選択したのは採取『地獄の大掃除』だった。
遥か地底で採掘される『ガイアの恵』と呼ばれる鉱石があり、その採掘場が『シザー・アント』と呼ばれるモンスターの巣と繋がってしまったと言う。
モンスターを倒してガイアの恵を持ちかえるのが今回の目的だった。
「よ〜するに、モンスターぶっ倒してその鉱石取ってくりゃ良いだけでしょ? 簡単簡単」
「あくまでも採取が第1目的、モンスターは別に無視しても良い」
「それはそうなんだけどさ、そう簡単に済むかな?」
「どうして?」
センリは私に訪ねて来る。
私は前を見た。
レミとサリアさんが恋人の様に腕を組みながら(と言うか一方的にサリアさんが抱きつくように)歩いていた。
レミは決して迷惑と言う訳ではないのだろうけど、とても嬉しそうな顔はしていなかった。
一方サリアさんは本当に嬉しそうだった。憧れの人と会えたのだから当然と言えば当然だろう。
それを見ていたエミルは言って来た。
「何だかアタシ達忘れられてない〜?」
「まぁ、今回はサリアさんの為なんだし、別に良いじゃない?」
「何よ、コロナまであの子の肩持つ訳?」
「そ、そう言う意味じゃないよ」
目を細めて睨んで来たエミルに私は手を振る。
「ね、ねぇサリア…… そろそろ離してくれないかなぁ? モンスター出たら戦いづらいし……」
「お姉さまは私がお守りしますわ、こう見えて私はレベルMAXですから」
「ええっ、って事はレベル30? クラスチェンジ出来んじゃない!」
「ですからこれからの道中は私にお任せを……」
「人の話を聞けぇ―――っ!」
エミルの怒りが再び爆発した。
普段は自分の方が聞かないクセに…… と言いたいが私は我慢した。
するとその時だった。
目の前の地面が盛り上がるとそこからモンスターが出現した。
黒光りする全身、一見クワガタと間違えそうな巨大な顎に2つの大きく飛び出た複眼、頭部から2本の触覚が生え、6本の足を巧みに使いながら地中から這いずり出た人間大位の巨大な蟻のモンスターだった。
こいつがシザー・アントだった。
しかも1匹や2匹じゃ無い、私の周りから無数のシザー・アントの群れが現れて取り囲んだ。
「みんな下がって、ここは私が……」
私はファイア・ソードを抜刀する。
だがしかし、レミからサリアさんが離れると自分の武器を取り出した。
それは緑の縁取りの2つの鉄扇だった。風の属性が取り付けられた『パピヨン・フェザー』と言う武器だった。
「お姉さまは、私が守りますわっ!」
そう言いながらパピヨン・フェザーを広げると技コマンドを選択する。
「戦転の舞っ!」
体を独楽のように回すと瞬時に自分の周囲のシザー・アント達が竜巻に飛ばされたかのように宙に舞い、地面に叩きつけられて消滅した。
踊り子の攻撃力は数あるジョブの中で中間ぐらいだけど、レベルMA?は伊達じゃ無かった。
「すごい……」
「コロナ、よそ見しないで」
センリが言って来た。
残ったシザー・アント達はジリジリと私達に近付いてきた。
エミルはアクア・トンファーを構え、センリも雷鳥の杖を掲げて各自のコマンドを選択する。
「エミル・マッハ・バイオレンス・バスターっ!」
「ギガ・ファイザッ!」
エミルの爆烈拳が敵を吹き飛ばし、雷鳥の杖から放たれた炎が意思を持つかのように荒れ狂いモンスター達を飲み込んだ。
しかしシザー・アント達はまだまだ現れた。壁から、天井から、足元から…… 無限にわき出て私達の周りを再び取り囲んだ。
「何か最近こんなのばっか……」
「古人曰く、『二度ある事は三度ある』」
「普通のゲームでもあるじゃん、似たようなイベントをモンスターやダンジョン変えて複数にみせるってやつ」
「エミル、それ露骨過ぎるよ」
そりゃスタッフだって色々あるんだし、クエストを考えるのも大変だろう、話が被ってしまうのは仕方ないかもしれない。
しかし今回はモンスターの発生率が高過ぎる、ゴブリンやアンデット、P・マーマンの比じゃ無かった。
しかも厄介なのは数だけじゃなくてモンスターの能力だった。
『ギシャアアアッ!』
シザー・アントは口から青い液体を吐きだした。
「きゃっ!」
私はそれを頭からかぶってしまった訳だが、途端に私の頭の上に『DОWN』の文字が現れた。
シザー・アントが吐き出した蟻酸はキャラの防御力を下げる能力がある、こんなのを食らい続ければ大した攻撃で無くともダメージが高くなる。
「これじゃキリが無い」
「仕方ない…… 一旦逃げよう」
「古人曰く、『三十六計逃げるにしかず』!」
確かにそれが1番の手だった。
私達は奥へ続く通路へ向かった。
しかしレミとサリアさんと私が通路に飛び込んだ時、頭上が崩れ落ちて道が塞がってしまった。
「しまった!」
「エミル、センリっ!」
私達は振り返る。
だが人の心配をしている暇はなかった。
壁が崩れて別のシザー・アントが現れた。
「このっ!」
私はファイア・ソードを振るってシザー・アントを切り裂いた。
「2人供!」
私はチャット・モードで話をする。
しかし返事が返って来なかった。
あれだけシザー・アントがいたんだし、返信する暇が無いのか、もしくはリタイヤしちゃったか……
「ここで考えてても仕方が無い、私達は先に行こう」
「レミ? だって2人が!」
「あいつらなら大丈夫だよ、前にもこんなのあったでしょう」
「まぁ、そりゃそうだけど……」
私は口ごもる。
アンデットの館は色々行ける場所が沢山あったし簡単に逃げられたけど、今回は敵に囲まれている。
センリの魔法でシザー・アント達は倒せたとしても道が塞がってる以上合流するのは不可能だ。