ねとげ~たいむ
クエスト8・憧れの人
私達はクエストを終え街に帰って来た。
夏休みと言う事で時間が沢山あり、ランク8のクエストも順調にクリアしていた。
「あともう2つクリアすればランク9ね」
「もうすぐエキスパート・レベルだね、どんな所なのかな?」
「さぁ、多分今より難しいのは間違いないでしょう……望む所だわ」
レミの目が輝いた。
難しくなるのは嫌だけど、どんな所なのかは楽しみだった。
そう言えば私のお姉ちゃんももうすぐエキスパートだって言ってた。
ロクにゲームしてないクセにどうして進むの早いのか理解できなかった。
「じゃあ道具を買ったら早速……」
「お姉さま!」
その時だった。
突然1人の女の子が私達の方を向いて叫んだ。
オレンジのストレートを左右に分けてうなじ辺りで分けて両肩から垂らし、白いノー・スリーブの上半身と白いア―ムソックス、ミニスカートに膝から下は青いブーツを装備し、白く腰までしか無いマントを羽織り、左肩辺りで翼を模した留め金で固定していた。
「やっと見つけましたわ、お姉さま〜っ!」
女の子は走り出すとレミに抱きついた。
こんなシチュエーション、マンガで見た事がある。
「えっ? ええっ?」
当人のレミは訳が分からずに首をかしげる。
「うわっ、過激っ!」
「………」
エミルは口元を抑え、センリは何も言わなかった。と言うより何も言えないんだろう、私も同じだからだ。
私達はプレイヤーズ・バーにやって来た。
彼女のハンドルネームは『サリア』、私達と同じ冒険者ランク8の踊り子の女の子だった。
「ええと…… どこかで会ったかしら?」
さすがのレミも対応に困っていた。
アバターとは言え、いきなり抱きつかれて『お姉さま』と言われたのだから無理も無い。
するとサリアさんはテーブルを叩きながら言って来た。
「お忘れですかお姉さま! 私(わたくし)達はあれだけ熱い想いを馳せた中ではありませんか!」
「えっ? えっ? 熱い中って…… いやぁ〜んっ!」
「アンタは黙ってなさい!」
どんな想像をしたのか分からないけど状況をあおり立てるエミルをレミが黙らせる。
するとサリアさんは言って来た。
「あれはまだ凍てつく日の事でした。旅に出て右も左も分からなかった私を魔物の毒牙から助けてくれたじゃありませんか」
踊り子と言うか詩人みたいに芝居がかったように言って来る。
簡単に言えば3月の特別クエスト(クエスト7を参照)で私と出会う少し前にモンスターに襲われそうになった所をレミに助けられたと言う。
しかし彼女はその後他のモンスターにやられてしまい退場したらしい。
私もセンリに助けられた訳だし、気持ちは分からなくも無い。
私はあの時が初プレイだったけれど、サリアさんは一週間前から始めたらしい。
「ああ、そう言えばあったわね、そんな事……」
レミは思い出したようだった。
するとサリアさんはそのままその場でクルリと回転すると私達に背を向けて左手を自分の胸に当て、右手の平を返して天井高く掲げるとオスカー女優の劣化版の様な感じで言って来た。
「ああっ、貴方のお姿を追って私は来る日も来る日もこの仮想世界をさ迷い続ける日々…… でもやっぱり私達は運命の赤い糸で結びついているのですね」
「あ、赤い糸って…… そう言うのは男に言いなさい! ってか私にはそんな趣味は無いわよ!」
レミは混乱していた。
こんなレミも珍しかった。
「ようするに、仲間に入りたいと?」
私は尋ねる。
するとサリアさんは私に向かって言って嘲笑うように言って来た。
「あら、私はお姉様さえいればお供は要りませんわ」
「はぁ? お供だぁ?」
要するに私達は桃太郎の犬と猿と雉って事?
眉間に皺を寄せながら椅子を蹴って立ち上がるがサリアさんは本当に私達など眼中に無いように言って来た。
「今からでも遅くありませんわ、お姉様なら四天王にだってなれますわ」
「四天王?」
私は首を傾げる。
するとセンリが言って来た。
「マスター・ランクの上位4人は四天王って呼ばれてるって聞いた事がある」
「でもそれで何か良い事でもあるの?」
私は尋ねる。
「やれやれ、本当に何も知りませんのね」
するとサリアさんが首を振りながら言って来た。
「確かにゲームの最重要目的はクリアする事ですけど、ユーザーの頂点に君臨する事も重要な事なのですわよ、その中でも四天王は最大の憧れなのですわ!」
「いや、だから…… 頂点になって何がしたいの?」
「えっ? そ、それは……」
サリアさんは口ごもった。
別に深い意味は無かったのね……
バスケやサッカーとかのスポーツ漫画が流行ってるからって習い始めるのと同じだった。
するとレミが苦笑しながら言って来た。
「まぁまぁ、マスター・ランクなんてまだ先なんだし、私達は私達なんだからさ……」
「お姉さまっ!」
「とにかく、私はこのパーティ止めるつもりは無いよ、結構長い付き合いだからね…… コロナやセンリにも借りがあるし」
「ちょっと、アタシには何も無い訳?」
「アンタはアンタに貸しは作っても借り何か作った覚えは無いわよ」
「ムキィ――っ! どいつもこいつも〜っ!」
エミルは沸騰した。
私は場を抑える為に立ち上がった。
「ね、ねぇ、そろそろクエストが更新される頃だし行ってみようよ、良かったらサリアさんもどうかな?」
するとサリアさんは面倒くさそうに言って来た。
「はぁ? 私はお姉さまとのお誘いしかお受けしませんわよ」
「ん〜、でも良いんじゃない? ゲームはみんなでやった方が面白いし」
「そうですわよね!」
コロコロ変わる人だなぁ。
好きな人以外眼中にないってタイプだな。