ねとげ~たいむ
甲板上のP・マーマン全てを倒すと私は内部に突入した。
内部は案の定薄暗く、水棲モンスターの巣窟となっていた。
透き通った身体に無数の足を持つ空飛ぶ電気クラゲ、フロート・ジェル。
ノコギリの様な歯に4つ足歩行が可能となった水陸両生の鮫、グランド・シャーク。
これらのモンスターを私達は蹴散らしながらダンジョンの奥へと進んで行った。
船内の破損は酷く、床に大きな穴が空いて海水が浸水している為に進めない為に迂回しなければならない所もあった。
またその逆、海水を入れて水嵩を増やさなければ進めない場所もあった。
1つ1つ部屋を確認し、怪しい所が無いかを確かめている時だった。
「海賊船なんだから、お宝とか無いかな?」
エミルが言い出した。
確かにその発想は捨てがたい。
宝物があるなら私だって見て見たいからだ。
「ゲームなんだからある訳無いでしょう、あるとしても持って帰れるなんてたかが知れてるわよ」
レミが現実に戻して来る。
確かに仮に目の前に金貨の山があったとしよう、だけど私達(アバター)は持って帰る事は出来ない、悲しい事に……
「でも海賊って憧れるよね〜、銀河最大のお宝求めたり、1繋ぎの超秘宝を求めて仲間と一緒にグレート・ラインで……」
「それ何の海賊よ?」
「特撮と漫画が混ざってる、基本海賊って無法者だから悪い連中の方が多い……それに国その物が海賊と結託して敵国の船を襲わせていた時代もあった」
センリは説明して来る。
「それって、私掠船って奴?」
私は尋ねるとセンリは頷いた。
私掠船とは襲った船の戦利品を何割か払う事で略奪許可を得た海賊の事である。
海賊は世界中に沢山いる、例え敵国の船だったとしても一般人の船を軍人とかが襲えばそりゃ戦火の火種になるけど、海賊が襲えば納得できなくても諦めざる終えない。
「古人曰く『蛇の道は蛇』」
「海賊が海賊なら国も国ね……あれ?」
レミは首をかしげた。
今開けようとしている扉が開かなかったからだ。
「錆び付いてんじゃ無い?」
「もしくは鍵が必要とか」
「じゃあこの部屋は後回しね」
レミはドアノブから手を放すと別の部屋を探す事にした。
その後も何の発見も無く、出て来るのはモンスターばかりだった。
倒しに倒しまくって、海賊船の1番奥にやって来た。そこは丁度操舵室だった。
苔だらけの部屋の中で1人のモンスターが舵を取っていた。
後ろ向きでも分かる、フック船長を思わせるような黒いコートと帽子を被ったマーマンだった。
『ククク……ようこそ、我が海賊船へ』
男は後ろ向きのまま言って来た。
舵から手を放すとクルリと振り返る。
見ての通り、こいつは今まで戦って来たマーマンじゃ無い、このステージのボスだった。
『キャプテン・マーマン』
名前が表示されるとC・マーマンは舵の側にかけてあった三つ叉の鉾を手に取った。
私達は臨戦態勢に入る。
「ボスのお出ましか!」
「上等じゃ無い!」
そして戦闘が始まった。
『野郎ども、出てこい!』
C・マーマンが剣を引き抜き、天井高く掲げるとどこからともなく手下のP・マーマン達が現れた。
こいつはボブ・ゴブリンやリッチ同様、仲間を呼び寄せて戦わせるタイプだった。
でもこれはボスを倒せば全員倒れると言うパターンだ。
「雑魚は私達に任せて、コロナとエミルはボスをお願い!」
「分かった!」
「りょ〜かい!」
私達は武器を構える。
「飛ばしていくよ、コロナ!」
「うんっ!」
私達は技コマンドを選択して攻撃した。
「エミル・マキシマムシューティングアタックっ!」
「パワー・ドライブっ!」
私達の同時攻撃が炸裂する。
するとC・マーマンは三つ叉の鉾を両手で構えて扇風機の様に回転させると私達の攻撃を弾き返した。
全くのノーダメージ、今度はC・マーマンの攻撃となった。
『はああっ!』
C・マーマンは両手で構えた三つ叉の鉾をエミルに向かって振り下ろす。
「スキル発動!」
私はガ―ドスキルを発動してエミルを庇う。
今の装備じゃ私のライフは結構減るけど、そんな事は構わなかった。
「エミル!」
「うんっ!」
両足を揃えてジャンプ、さらに私の肩を蹴ってもう一度ジャンプ、身を捻って右足を着きだした。
「エミル・スパイラルグレネ―ドキィィ―――ック!」
エミルの錐揉みキックが炸裂する。
しかしC・マーマンはこれも弾き返されてしまった。
激しく回転するエミルと三つ叉の鉾がぶつかり合い火花を散らした。
「チッ! 何なのよ?」
攻撃が失敗したエミルは舌打ちしながら私の方まで戻ってきた。
物理攻撃が通じないとなると考えられるのはあと1つだ。
「センリ、レミ!」
私は叫ぶ。
レミとセンリは相手にしていたP・マーマン達を倒すと微笑しながら自分達の武器を構えた。
「任せて!」
「分かった」
2人は体制を返るとレミの足元に金色の、センリの足元には紫色の魔法陣が輝いた。
技コマンドを選択して攻撃魔法を解き放った。
「シェイクっ!」
「ギガ・ライザーっ!」
半月型の衝撃波と一点集中の雷撃がC・マーマン目がけて解き放たれた。
レミの魔法は大したダメージは与えられないが、センリの攻撃は水属性のモンスターには絶大的、当たれば結構ダメージは与えられるはずだ。だが……
『フンっ!』
しかしC・マーマンは魔法攻撃さえも弾き返してしまった。
「くっ、何て野郎よ?」
「……魔法も効かない」
「こいつ無敵?」
エミルは眉間に皺を寄せる。
無敵って訳じゃないだろうが、きっと必ず弱点があるはずだ。
「弱点って言ってもなぁ……」
私はC・マーマンを見まわした。
ナイトメア・ドラゴンみたいにどこかに心臓部でもあるんだろうか?
『野郎ども!』
C・マーマンが叫ぶと再び手下達が現れる。
あっという間に私達の周りを取り囲んだ。
「くっ、どうするの?」
私達は背中を合わせながら言う。
このままじゃFPも無くなる、私とエミルとセンリはともかく、レミが無くなったら戦う事は出来ない。
「ああもう! どうすりゃ良いってのよーっ!」
エミルは目の前から襲いかかるP・マーマンに攻撃しながら愚痴る。
するとセンリがエミルに訪ねて来た。
「エミル、プラスアタック・スキル持ってたよね?」
「えっ? それがどうかしたの?」
「あ、そうか!」
エミルは首をかしげるが私には分かった。
プラスアタック・スキルとは早い話が追加攻撃の事で、これを発動すれば通常攻撃の後にもう1度攻撃できるのである。
エミルは防御力が少ない分攻撃手段を増やす為にこのスキルを着ける事にした。
「分かった。やってみる!」
エミルはC・マーマン目がけて突進する。
「りゃあああっ!」
エミルのドラゴン・バトンを構えて振り下ろす。
しかし案の定弾き返されてしまうが、その隙を狙ってエミルはスキルを発動させた。
「スキル発動!」
レミの右足が青く輝くとそのまま大きく蹴りあげた。
「うりゃあああああっ!」
エミルの攻撃は決まった。
C・マーマンの三つ叉の鉾は手元から弾き飛ばされ、円を描きながら遠くの床に突き刺さった。
「効いた!」
「よし、今よ!」