ねとげ~たいむ
「な、何っ?」
私達はマグマ・レックスの側を離れた。
マグマ・レックスは落とし穴から這い出ると大きく咆えながら紅蓮の炎を噴き出した。その姿は恐竜を通り越して怪獣だった。
「まるで一昔前の怪獣映画だなぁ……」
水爆実験で怪獣化した恐竜が街を暴れるって言う……
でもここは仮想世界で、このモンスターは元々そういう風に設定されてここに棲んでるだけの物、本当に現実世界にいなくて良かった。もしそんな怪獣が現実に存在したら大惨事だ。
怒りが頂点に達したマグマ・レックスは私達に向かって炎を噴き出した。
「ス、スキル発動っ!」
私は防御しながらガード・スキルでセナさんをガードする。
だけど炎の威力はすさまじく、防御が精いっぱいだった。
さらにマグマ・レックスが突進してくると私達はボーリングのボールがぶつかったピンのように弾き飛ばされた。
「「きゃあああっ!」」
防御してたからダメージはさほどない、だけど大幅に減ってしまった。もし防御してなかったらゲーム・オーバーだった。
「コ、コロナさん?」
「だ、大丈夫…… それよりこいつを何とかしないと」
ゲームオーバーなんて問題じゃない。
折角こいつを倒してバーニング・ルビーを手に入れるって決めたんだ。どうせなら最後の最後までやりたい。
セナさんは私より先にこのクエストをやってるから、どのくらいかは分からないけどタイム・オーバーは私より早いはず。
そうなると大急ぎでやらなきゃいけない、私1人じゃ結構きつい。
(落ち着け…… こんな時どうすれば?)
センリならこんな時にパッパと作戦を思いつく、だけど私はセンリほど頭が良い訳じゃないからロクに考えがまとまらなかった。
するとセナさんが……
「せめて攻撃が通れば…… 何とかできないかなぁ?」
それが問題だった。
奴の外見に変化が無い、つまり私達の攻撃はさっきから効いてないって事になる。
「そりゃ溶岩の中を泳ぐぐらいだから、並大抵の防御力じゃ…… えっ?」
私はある事を思い出した。
それはずっと昔に習った理科の実験だった。
セナさんの武器、さらに周囲のマグマの海や壁から流れるマグマの滝を見回した。
「そうだ。セナさん、罠はまだありますか?」
「えっ? はい、まだありますけど?」
「なら落とし穴を掘ってください」
「えっ、またあいつを落として?」
「いえ、それは違うわ……」
そう穴に落ちるのはモンスターとも限らない。
「とにかく罠の準備をしててください、私はその隙に……」
私はバスター・ソードを構えてマグマ・レックスの前に立ちふさがる。
『ガアアアアッ!』
マグマ・レックスは大きく口を開けると私に向かって巨大な火球を放った。
「まさかエミルの真似をするとは思わなかったな」
私は微笑しながら道具コマンドを開いて装備を交換する、それは『メタル・スパイク』だった。
燃え盛る火球が私に迫る中、私はメタル・スパイクを両手で持つと顔の横まで持って行くと打撃系武器を装備時の技を放った。
「パワー・ドライブッ!」
私はメタル・スパイクをバットの様に構えると以前エミルが使った『エミル・ばってぃんぐ』と同じ(本当は剛閃打)技で火球を跳ね返した。
とにかくコロナ・バッティングって言おうかな? 結構最初の方に覚えたから棍棒版の気合い斬りと言うべき技だった。
私に跳ね返された火球はマグマ・レックスの顔面に当たって爆発した。
『ガアアッ!』
マグマ・レックスの巨体が揺れた。
足を踏ん張って転倒するのを防いだが、鋭い目で私を睨んだ。
「セナさん、罠の準備は?」
「出来てます!」
私が言うとセナさんは答えた。
一方マグマ・レックスは唸り声を上げながら私達に向かって来た。
「よし、セナさん!」
「えっ? きゃあっ?」
私はセナさんの腕をつかむと落とし穴の中に飛び込んだ。
ゲームゆえに落とし穴は一旦中に入ると別の物は落ちる事は無い。
マグマ・レックスは私達の真上を通り過ぎると壁に激突した。
岩壁に亀裂が入ってマグマが勢いよく、滝のように溢れだすとマグマ・レックスは頭から被った。
「セナさん、今よ!」
「はい!」
私は両肩の上に装備を氷河の弓に変更したセナさんを乗せて肩車で表に出して弓を引いた。
マグマ・レックスの皮膚が真っ赤に変色するとマグマの滝の中から出て来るとセナさんは『リピット・スキル』を発動させた。
「スキル発動!」
再び無数の矢がモンスターに放たれる。
また大したダメージを与えられないだろうと思うだろう。だけど今回は違った。
セナさんの矢がヒットするなり白い水蒸気を上げると皮膚に亀裂が入った。
高熱で熱した物に冷気をぶつけると壊れてしまう、温度差を利用した作戦だった。
『ガアアアッ!』
マグマ・レックスは咆えとセナさんに襲い掛かった。
しかし私はガード・スキルを利用して表に出る。
「スキル発動!」
こう言うのを裏技って言うんだろうな、コマンドで防御を選択して瞬時に表に出るとセナさんをかばった。
しかしさっきの硬い皮膚を利用しての攻撃より今回の方がダメージは少なかった。
私は装備を剣に替え直すとコマンドを開いて技を選択した。
「乱舞っ!」
今度はマグマ・レックスに攻撃が通じた。
『ガアアアッ!』
私の攻撃に体を仰け反らせるマグマ・レックス。
「セナさん、今よ!」
私がその場を飛び退くとすぐ後ろで弓に装備し直したセナさんが攻撃に参加した。
「スパイラル・ショットッ!」
この技は弓装備時に使える貫通式の技で、通常の2倍の攻撃力を放つ事が出来る。
放たれた矢が空気の渦を巻き、ドリルの様に螺旋を描きながら飛んで行くとマグマ・レックスの胸を貫いた。
『ギャアアアアア――――ッ!』
クリティカル・ヒットが炸裂、マグマ・レックスはその場に崩れ落ちた。
「やったやった! やりましたぁ!」
セナさんは飛び跳ねて喜んだ。
これにてクエスト終了だった。