ねとげ~たいむ
村を出てからしばらく歩いて私達はクエストにある洞窟にやって来た。
真っ暗なダンジョン(ゲームだから明るいけど)の中を私達パーティは進んで行った。
その最中だった。
「ねぇねぇ、思ったんだけどさ」
エミルが聞いてくる、
「あの村って道具屋に毒消し草売ってたよね?」
「ああ、そうね」
私は答える、
この洞窟に来る前に村の道具屋で買い物をした事を思い出した。
街の道具屋と違い品揃えは少ないが必要な物は一通りそろえる事が出来た。
「なら使う分だけの水に毒消し草使えば簡単に問題解決じゃない? わざわざ高いお金出して薬買う事もないんじゃない?」
「それじゃゲームにならないでしょうが」
レミは眉を細める、
確かに身も蓋も無い、ゲームとは言え人が困る事は起きてはいけないんだけど、何かイベントが無ければゲームにならない、
洞窟の奥に進むにつれて戦闘も激しくなっていった。
長いハサミの両腕に長い身体に無数の足のハサミ・ムカデ、巨大で毒々しいゼリー状の物体に巨大な1つ目の生えたポイズン・スライム、さらに集団で獲物に襲い掛かってくるブラッディ・バットなどが襲いかかって来た。
でも私達の敵じゃ無かった。
なるべくFPは温存しながら肉弾戦で、回復も薬草とかで間に合わせた。
「エミル、薬草は考えて使いなさいよ」
「はいは〜い」
「はいは一度でいいの!」
「なんだかレミってお母さんみたい」
私は苦笑した。
「冗談じゃないわよコロナ、こんなののお母さんだなんて考えたくもないわ」
「そうだよ! アタシのお母さんならもっと綺麗でグラマーな人のはずだもん!」
「ちょっと、どういう事よそれ?」
「あれ? 知らないの? アバターって作る時にその人の願望や思いとかを形にするって……」
「へぇ、じゃあアンタ本当はチンチクリンな訳ね」
「う、うるさいな! そりゃ背の順じゃ一番前だけど……」
「あはは、大変だね」
私も小中って結構背の低い方だったから覚えてる、
確かに背の高い方なら方で結構苦労してるみたいだけど、小さいじゃ小さいなりの苦労がある、
「コロナってどういう基準でアバター作った?」
「私? 私は別に…… 変にならない程度に考えただけだけど」
大概はそうだろう、
あんまり変なアバターは作らないだろう、私の場合こだわったと言えばこのツインテールくらいだった。
髪型を検索してる時にこのツインテールを見つけ、現実でもツインテールなのでそれに選んだだけだった。
「それにアバターって言ったって顔とかのパーツ変えられるんだからあんまり意味ないんじゃない? お姉ちゃんが言ってたけど」
「そう言えばお姉さんいるんだっけ?」
「うん、お姉ちゃんも他のパーティで頑張ってるよ」
お姉ちゃんも同じ戦士で、パーティも武闘家、僧侶、魔道士と言っていた。
「確かこの前8クラスになったって言ってた」
「いいなぁ、強いお姉ちゃんがいてさ」
「強いって言ったってゲームの中だし……」
私は苦笑する、
私のお姉ちゃんは結構だらしなかった。
学校じゃ成績上位でラクロス部のエースのくせに家じゃ凄くだらしない、
部屋中散らかし放題だし、お風呂場も服とか下着とか脱ぎっぱなし、おまけに家事もまるでダメだった。
しかも休日なんかお父さんと一緒にゴロゴロしている、
「ご飯も私が作らなきゃいけないし、掃除も洗濯も私がしなきゃいけないの、全くお父さんが2人いるみたいだよ」
「お母さんが大変じゃないの?」
「ああ、お母さんはそんなお父さんが好きになったんだって」
私のお母さんがお父さんを好きになったのは母性本能をくすぐられたかららしい、
「確かお父さんが会社に就職が決まった時に受付の新人さんだったお母さんと知り合ったんだって」
「それで一目ぼれ? 確か結婚後も仲良いんだっけ?」
「いいなぁ! アタシの家なんかお父さんもお母さんもケンカばかりしてるんだよ」
するとエミルが腕を頭の後ろに回して言って来た。
何でもエミルの両親は私の家とは全くの真逆で、すぐケンカしたり離婚しようとしたりと日常茶飯事らしい、
「でも翌日になるとケロッとしてるんだよ、いい加減アタシも兄貴も慣れちゃったよ」
エミルは両手を上げた。
って言うかお兄さんいたんだ。
「中3のね…… この前テレビで見たプロレス技掛けたら泡吹いて動かなくなっちゃったんだよ」
さらりと凄い事を言った。
でもこの後お母さんにメチャクチャ怒られたらしい、
「アンタは凄い家族ね」
「レミは違うの?」
「私は兄弟いないから、お母さんも私が小さな頃に亡くなったし…… 今はお父さんと2人暮らしよ」
「何だか淋しいね」
「そうでもないわよ、家結構広いし、庭あるし、池もあるし、お手伝いさんは結構いるし……」
「お金持なの?」
「お父さん何してる人なの?」
するとレミは足を止めると顔を暗くして目を泳がせた。
「……聞かない方が、身の為よ」
その言葉に重みを感じたので私達は何も言えなくなった。
私は気を取り直してセンリに訪ねた。
「セ、センリ、センリの家ってどんなの?」
「……言わなきゃいけない?」
「えっ? いや、そう言う訳じゃ……」
「アタシ達話したんだから良いじゃん別に!」
いや、レミはあんまり話してないけどね、
でももし話したくないような環境だったらどうしよう、怒ってパーティ辞めちゃうかな?
「ごめんねセンリ、話したくないなら別に……」
「違う」
「えっ?」
「着いた」
階段や坂の上り降りを繰り返し、たどり着いた場所は大きな地底湖だった。