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ねとげ~たいむ

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 それから数日後。
 私は久々に仮想世界に出かけた。
 久しぶりにエミル達からメールが来て冒険に出かける事になった。
 やっぱり顔を合わせると安心する…… 何しろこっちの友達は気軽に顔を合わせる事が出来ないからだ。
 それから様々なクエストを受けた。
 紅蓮に燃える炎の鬣を持つ『ブレイズ・レオン』と戦う『灼熱に吼える獅子』や水陸両用で鋭い牙と巨大な顎を持つ鰐『ハングリー・クロコダイル』を倒す『湖畔の暴食漢』や戦場で彷徨う怨霊騎士『デュラハン』達を成仏させる『迫る! 死霊の騎士団』等を皆とクリアし続け、ついに私達はビギナー・ランク最後のクエストを受ける事になった。
 その最終クエストは『轟く雷鳴! トニトルス』と言って、1年中落雷が落ちる『ブラスト・マウンテン』に棲息する『トルニトス』と言うモンスターが国境付近の村や町に現れて甚大な被害を出していると言う、
 パラディスは軍を整えて討伐に向かわせたのだけど、モンスターの強さと棲息しているブラスト・マウンテンの環境が相まって撤退せざるおえなかったと言う。
 そのトルニトスを討伐すると言うのがこの最終クエストだった。

 空が一面黒い雲に覆われ、吹き荒れる風と矢の様に降り続ける雨、時折空が眩く輝くと鼓膜が痺れんばかりの雷鳴が響き、落ちて来た光の刃が大地を砕くと言う…… その草一本生えて無い切り立った山道を私達は駆けあがった。
 無論こんな所でもモンスターは棲息していた。
 両手が鎌となったイタチの上半身、下半身が尻尾を激しく回転させて作り上げた竜巻の中に収まったストーム・リッパー。
 小さな雷雲の上に乗った肥満で耳が尖ってモジャモジャ頭の頭から2本の角を生やした(早い話が雷様の子供バージョン)、サンダー・インプ。
 巨大な腹にダイナモみたいな角を生やした巨大蜘蛛ボル・タランチュラなどが現れて私達の行く手を塞いだ。
 この山は風属性や雷属性の敵の住処となっていた。
 でも今回はモンスターばかりでなく天候までもが私達に牙を剥いて来た。
「うわぁ!」
 エミルが叫ぶと同時に私達も足を止めた。
 数メートル先に落雷が落ちて地面を場所を砕いたからだ。
 今回はこの落雷にも気を着けなければならなかった。
「ホント、マジでうざいわね」
 レミが眉間に皺を寄せながら舌打ちをした。
 確かにこれが当たると結構痛い…… 結構HPを削られる。
「これ作っておいて正解だったね」
 私は自分の羽織ってるフード付きで水色のマントを見た。皆も同じ物を装備している。
 それは『ラバー・マント』と呼ばれるアクセサリーで、これを身に付けていると水属性と雷属性の攻撃やトラップのダメージを激減してくれると言う代物だ。
 このクエストのタイトルを見た時に明らかに雷属性の敵が多く出て来る事を察した私達はこのマントを錬金した。
「でもこれ嫌〜い、何だかてるてる坊主みたい〜」
 エミルは口を尖らせた。
 確かにラバー・マントなんて言葉の響きこそ良い物の、実際はただの雨ガッパだ。
フードを被ればてるてる坊主に見えなくもない…… しかもダサい。
「アタシ女なのに〜、なんで坊主なのよ〜っ!」
「でもてるてる坊主って、本来は女の子だよ」
 私は言った。
 本来てるてる坊主と言うのは平安時代に中国から伝わった物で、中国では白い紙で頭を作り、赤い紙の服を着せて箒を持たせた人形を軒下に吊るしていたらしい。
 箒を持っているのは雨雲を掃いて晴れの気を寄せつける為らしく、別名『雲掃人形』や『掃晴娘』等と呼ばれていたらしい。
ちなみにどうして女の子が男になったのかは色々あるけど、日照りを祈祷する僧侶や修験者が男だったからだとか、人形が坊主頭だからだとか様々な説がある。
「晴れたら瞳を書きいれて神酒を備えて川に流してたんだって」
「じゃあ顔書かなくて良かったんだ。私子供の頃はずっと顔書いてた」
「私も書いてた。顔を書いて吊るすと雨が止まないって後から知った」
「じゃあ晴れなかったらどうなったの? やっぱのっぺらぼうのまま?」
「いや、そう言う訳じゃないんだけど……」
 私は口ごもった。
 ちなみにレミもその理由が分からずに首を傾げていた。
 センリは分かってるんだろう、目を反らした。
 実はてるてる坊主を吊るして晴れなかったらとんでもない事をされる…… 
「雨が降らなかったら…… 押し入れに仕舞ってまた雨が降ったら使うんだよ」
「へ〜、コロナ物知り〜」
 エミルは感心した。
 でも騙しちゃったなぁ……
 本当は雨が止まなかったてるてる坊主は首を切られるんだけど、とてもじゃないけど言う事が出来なかった。
 そんな事を考えているとセンリが私の近くに寄って言って来た。
「コロナ、古人曰く『嘘も方便』」
「で、でも…… 後でホントの事知って怒らないかな?」
「こんな事じゃ2人供怒りはしない…… 多分エミルはクエストが終わる頃には忘れてると思う」
 センリは言った。
 確かにエミルなら『何かあったっけ?』って言いそうだ。
作品名:ねとげ~たいむ 作家名:kazuyuki