ねとげ~たいむ
クエスト13,開幕・特別クエスト(後篇)
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画面が切り替わって青空の下の樹回のど真ん中に建てられた封印の祠が轟音を立てて吹き飛んだ。
鳥達が怯えて空へ羽ばたき、獣達が混乱して逃げ出した森の中、かつてパラディスが封印した最終兵器が100年の眠りから目覚めた。
5本の指と両腕、それを支える両足で立ち上がったゴーレムの鋼鉄のボディが日光を浴びて輝いた。
私達はと言うといつの間にか表に出ていて、目の前にそびえ立つ巨大ゴーレムを見ていた。
「って言うか、何でアタシ達表に出てんの?」
「ご都合主義って奴ね……」
私は苦笑した。
「しっかしファンタジーに巨大ロボって、最早何でもありね」
「レミ、正確には違うよ」
私は説明する。
ゴーレムは一般的に巨大な人形やモンスターと言われてるけど、実際は人間大のゴーレムも存在する。
そもそもゴーレムと言うのは神がアダムをの想像を人間が模倣した物だと伝えられている。
ラビ(宗教学者)が断食や祈祷などの儀式で泥(神話やフィクションによっては鉄や青銅など)に命を吹き込まれて作られた存在で、その意味は『不完全な者』とか『胎児』と言う意味も含まれている。
命を吹き込まれたゴーレムは泥の体が肌色となり、髪の毛が生えて人間と全く同じだと言われている。
「って事はワチキらもmud・dollでありんすか?」
「いや、何もそこまでは……」
「そ〜だよ、始まりの人はニブル・ヘイムの黄金の野菜で……」
「……それも違うから」
私はため息を零しながら言った。
そんな話をしているとメタル・ゴーレムに変化が起こった。
ゴーレムの単眼に不気味な光が灯ると大きな足を上げて歩き出した。
大きいだけに重量があるから一歩歩く度に湿気を含んだ地面が大きく窪み、人間など軽く入ってしまうほどの溝が出来た。
「どこに行くのかな?」
エミルが尋ねる。
私は地図を開いて確認する。
ゲームの条件が変わった事で地図も変わっていた。
現在の地図は私達がいる森のフィールドとパラディスまでの地形が映し出していて、私達は赤い点滅する丸印、メタルゴーレムは髑髏マーク、そして王国は3つの塔のお城で描かれていた。
髑髏マークは一直線にお城へ向かっている、これはつまり……
「王国に辿りついたらクエスト失敗って事か……」
レミは舌打ちをした。
するとレイさんがアイアン・ゴーレムを指差した。
「でもどうするでありんすか? いくらなんでもfoulでありんす」
「古人曰く『馬の耳に念仏』、ゲームに何っても仕方ない」
センリの言う通りだ。
こうなる事は必然だったんだろうけど、問題はレイさんの言う通り、こんな敵をどうやって倒すかだ。
「考えても仕方ないよ、攻撃攻撃ぃ!」
エミルは技コマンドを選択する。
「エミル・ジェットマグナムパーンチッ!」
エミルの正拳突きが放たれた。
エミルの攻撃はメタル・ゴーレムを攻撃する。
だけど……
「くっ!」
エミルは顔を顰めた。
エミルの拳は効いて無かった。
命中はした物の全くダメージを受けて無かった。
「エミル、下がって!」
私はファイア・ソードを両手に構えてジャンプした。
「メテオ・スラッシュっ!」
私の唐竹割り(元)が炸裂する。
だけどこれもダメージが無かった。
「ギガ・ライザーッ!」
センリの雷撃魔法が発動する。
センリの掲げた杖の先端から高密度の雷撃が放たれ、メタル・ゴーレムの頭部目がけて飛んで行った。
的も大きく、動きも鈍いの為にメタル・ゴーレムに難なくヒットする、だけど……
「くっ?」
センリは顔を顰めた。
センリの魔法は効いて無かった。
まるで何事も無かったかのようにゴーレムは歩みを止めなかった。
「どうすんのよ、これ?」
「破壊しても良いっつったのにぃ、王様のウソつきぃー――っ!」
「王様に当ってもしかたないよ」
頭に血が上ったエミルを私は宥めた。
「にしても、こいつ弱点とかない訳?」
「無い訳無いよ…… レイさん、お願い」
私はレイさんを見た。
レイさんもその言葉の意味を分かっていた。
弱点が分からないなら探せば良い、ただそれだけの事だ。
「ОKでありんすっ!」
レイさんはアナライズを発動させた。
待つ事数秒、レイさんは顔を顰めながら言って来た。
「weakness、無し?」
「何ですって?」
「んじゃ勝て無いじゃんっ!」
エミルは地団太を踏む。
私も気持ちは分かる。
このモンスターはまるでダメージが無い…… と言うか攻撃その物が通って無かった。
私達は何もできないままアイアン・ゴーレムの背中を追いかけた。
地図を見るとアイアンゴーレムと王国の距離は3分の1分に縮まっていた。
「……ゴーレムに弱点は無い?」
「コロナ?」
「やっぱりありえないよ、ゴーレムは『emelt』(エメト)って言う呪文を書かれた呪札を埋め込まれて作られるって…… emeltはヘブライ語で心理って意味なんだけど、最初の『e』の文字を破壊されると『melt』(死)になるって」
「でもそんなのどこにも無いじゃない、やっぱチートだよ! 後で会社にクレーム付けてやるぅ――っ!」
エミルは目を吊り上げながら歯ぎしりをする。
するとレミが顎に親指を当てながら言って来た。
「まるでいつかのモンスターと同じね、確かアンタ達と最初に会った時の…… 何だっけ?」
「ナイトメア・ドラゴン」
「いたっけ? そんなモンスター?」
「エミル、まさか忘れた?」
私達の思い出のクエストだってのに……
かつてオンライン・キングダム一周年記念として設けられた特別クエスト、その終盤に出てきたのがナイトメア・ドラゴンだ。
私にとっては初めてのクエストなんだけど、弱点が分からなくて皆も困っている時、私が偶然にナイトメア・ドラゴンの急所が背中にある事を突きとめた。
「外には無い、って事は…… 体の中?」
「それだよ!」
センリが言うと私は頷いた。
考えてみれば蘇らせたニコラスがいないのが何よりの証拠だ。
恐らく内部で操ってるんだろう…… となるとどこかに入口があるはずだ。
「レイさん、もう一度お願い!」
「ОKでありんす! analyzeっ!」
レイさんはアナライズを使った。
すると右の足元に矢印が浮かんだ。
「あそこでありんす!」
レイさんが指を差すと私達はアイアン・ゴーレムへ向かった。