ねとげ~たいむ
「行ける!」
私は確信した。
こいつは通常攻撃でもダメージは結構与えられる。
今までのボスキャラが特殊過ぎたのか、こいつが弱いのかは分からないけど、この勝負は楽勝だ。
「おっし、このまま畳んじゃおう!」
「ワチキらstrongでありんすからね、次はコロナサンもdo・togetherでありんすっ!」
「え? ええっ?」
「どうしたの? 何か悪かった?」
エミルは私を見た。
するとセンリが言って来た。
「そう言えばコロナ…… ここに来るまで自分の技を使ってない」
「うえっ?」
私の声が裏返った。
それと同時に顔を顰めた。
何しろ私の技の名前は昨日全部変更したからだ。
別にそれが悪い訳じゃない、エミルもショコラさんもレイさんも普通に叫んでる。
でもいざやるとなると恥ずかしすぎる…… 何しろ中学時代に文芸部だった頃に書いた小説の主人公の技の名前そのままだからだ。
こりゃエミルやショコラさんの事をとやかく言う筋合いがない……
「何、悩み事でもあるの?」
「い、いや、悩みってほどの事じゃないんだけど……」
「古人曰く『持ちつ持たれつ』、何かあるなら話して見れば良い、何があっても私達は関係無い」
「う、うん……」
私は全て話した。
すると皆最初は数秒間呆気に取られた顔をしたけど、やがて言って来た。
「……コロナ、そんな事気にしてたの?」
「そ、そんな事って……」
「ここはゲームの中なんだし…… そりゃ驚いたり思考が停止する事はあるけど、別に人の趣味にまで口出す奴なんていないわよ」
「ちょ、レミ! アンタ、アタシの時はあれこれ文句言うのに!」
「アンタはでたらめに叫んでるだけでしょう、ヒーローの技だってちゃんと一貫性が……」
「……レミ?」
「あ、い、いや別に何でも…… とにかくコロナ、小さい事気にすんじゃないわよ」
明らかにレミは話を反らした。
でも分かった。私の迷いは吹っ飛んだ。
「分かった。私も全力で戦うっ!」
私はファイア・ソードを構えた。
ハウザーは攻撃と防御を同時に行う事が出来るけど、防御の後に隙が出来る、狙うとしたらそこだ。
ハウザーのターン、巨大な斧がエミルに振り下ろされた。
『くらえェェ―――ッ!』
「なんのっ!」
エミルはハウザーの攻撃を回避する。
するとレミはメイスを構えてハウザーに向かって走り出した。
「死にさらせぇぇええぇぇ―――ッ!」
まさに鬼神の如しと言うべきだろう。
鬼と化したレミは渾身の力を込めてメイスを振り下ろした。
しかしハウザーは盾でそれを防いだ。
敵の攻撃後、私達が一斉に攻撃すれば全員の攻撃が完全に防御される、つまり誰か1人が囮になる事で残りの4人の一斉攻撃が可能になる。
この中で1番攻撃手段が殆ど無いレミが通常攻撃をしてわざと相手に防御を使わせ、その後攻撃に特化した私達が一気に攻撃する作戦になった。
「今よ!」
レミが叫んだ。
「は、はいっ!」
刹那の間怯んでいたエミル達はレミの言葉に我を取り戻して一斉に技コマンドを選択した。
「cross・blade!」
「ギガ・ライザーッ!」
「エミル・ファイナルエクセレントマーべラスキィー――ック!」
レイさんが懐に飛び込んで逆手に持ったブラック・セイバーで十字斬撃、その後はセンリの両手に金色で特大の雷撃が襲い、最後はエミルの飛び蹴りが炸裂した。
『グアアアアっ!』
3つの攻撃を同時に食らってハウザーは倒れた。
でも戦闘は終わって無い、再び立ち上がろうとしている前に私が立った。
そして技コマンドを選択、ファイア・ソードを刀身に炎が灯った。
私はハウザーに近付いて渾身の一撃をお見舞いした。
「ストライク・ブレードっ!」
気合い斬り(元)が炸裂した。
『ギャアアアア―――ッ!』
ハウザーは断末魔を上げた。
勝負は着いた。