引きとめられた夜(改題)
その後女性客は黙っていた。急に消えてしまったような不安を、私は感じていた。深夜なので、眠ってしまったのだろうかなどと思っていると、
「ありました!たくさん書いているんですね。読ませて頂きます」
スマートフォンかアイフォンなどの画面を見ていたらしい。
「たいしたものじゃないんですが、慈善事業だと思って、読んでみてください」
「今はもう土曜日ですね。今日と明日、読んでみます。どんなときに小説のアイデアが浮かぶんですか?」
「映画をかなり観るんですけど、月に三十本くらいでしょうか、観てるうちにそうだ、こんな話を書いてみよう。なんて思うことがあるんです」
「毎日映画を一本、ですね」
「二本か三本ですね。仕事の日は観られませんから」
「たくさん観てるんですね。今まで観たうちのベストワンは?」
私は或る恋愛映画のタイトルを云った。
「わたしも!それが一番すきな映画です。感動!」
「そうですか!私も感動しました」
本当に感動を覚えていた。鳥肌立つような感動だった。
「今、タクシーを仕事にして良かったぁ、という気持ちです。今までにこういう気持ちになったことはありませんよ」
作品名:引きとめられた夜(改題) 作家名:マナーモード