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引きとめられた夜(改題)

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「シートベルトを使ってください。ご住所を伺ってもよろしいでしょうか。カーナビに入力しますので」
 女性は気さくな人柄で、快く私の要望に応えてくれた。或る程度若い女性だと、私はその声を聞いて思った。おばさんと呼ぶのはかわいそうな年齢だと思う。だが、キャピキャピという感じの年頃は大分前に過ぎた、落ち着いた女性である。微かにアルコール臭が漂ってくるのは、飲みに来た帰りだから当然である。タクシー乗り場で別れを告げ、会釈した相手の男たちは、勤め先の同僚たちだったのだろう。
「暖かくなりましたね」
 きれいな標準語で話す女性だと、私は思う。東京かその近辺の出身だろうか。
「春ですねぇ。今回は寒い冬だったので、嬉しい季節の到来ですが、寂しい部分もありますね。冬のあいだは毎年キンクロハジロという渡り鳥に餌をあげているんですけど、今日が最後かな、なんて思ったんです」
「年末まで会えないんですね」
「私が公園へ行くと、すぐに気付いてずっと向こうから、運動会の徒競走みたいに横並びで、池の水の上を急いで来るんです」
「可愛いわねぇ」