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引きとめられた夜(改題)

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「明日、南砂町のタクシーセンターで謝らせるからな」
 左右の太ももにひざ蹴りが入った。激痛が走り、殺気を感じた。人通りが全くないところだった。脛やふくらはぎにも激痛。蹴られ続けている。倒れそうになったが、私は逃げようと決心した。上着の襟を掴まれた。それをなんとか振りほどき、私は走りだした。殺されると、真剣に思った。ナイフを持っているかも知れない。
 私は足が速かった。数十メートル走ると飲食店の灯りが眼に入った。私はその店に飛び込んだ。寿司屋だった。
「もう閉店だ。どうした」
 店の主人は細身で背の高い男だった。その表情を見ると、迷惑に感じていることが明らかだ。
「タクシーの乗客に暴力を振るわれたんです!」
 私は震える声で訴えた。
「え?何だか判らない」
「足が悪いんですけど、何度も思い切り蹴られました」
 血相を変えた高齢の店主はカウンターの外に出た。私は恐らく蒼白だったに違いない。
 白髪の寿司職人は戸を開けて外に出て行った。私も恐る恐る後に続いた。暗い道路にヘッドライトが点けっぱなしで、ドアも開けっぱなしの黒いタクシーが停車している。乱暴者の姿が、そこにはなかった。警察に通報されることを怖れ、どこか狭い路地にでも隠れたのだろうか。