30年目のラブレター
平凡という名の幸せ
夫の帰りがどんなに遅くても
私は必ず夫と二人で夕飯を食べることにしていた。
その夜は豚の生姜焼きだった。
お腹を空かせて帰ってきた夫が
まだ湯気の立つ肉を真っ白なご飯とほおばり
美味しいと連呼し、私は満足する。
そんな姿に平凡な幸せを感じる。
「よかったね…待っててくれる人がいて」
「うん? どうした? 急に」
「あのね、私の元彼が天涯孤独になっちゃって」
「は?」
「彼、ひとりぼっちになっちゃったの」
「は?」
夫は狐につままれたように、小さな目を見開いて
口の中のモノをゴクリと飲み込み、テーブルを拳で
思いっきりドン!と叩いた。
それから、テーブルの上のモノを全て撒き散らし
狂ったように叫んだ。
いや、叫ぶだろう。
多分、叫ぶと思う。
まだ、言ってない……。
想像してみただけだ。
夕方、元彼から電話があった。
半年前にお母さんが亡くなったと…。
5年前に父親も亡くし、結婚もしていない彼は
ついに天涯孤独となった。
作品名:30年目のラブレター 作家名:momo