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プリンス・プレタポルテ

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19.Happily Ever After


  鳴り響く電話のベルに、半開きのまま鋭く息を吸う。首を起こした途端殴られたかのような痛みが頭に広がるが、それよりも苛立つのは甲高い機械の音。椅子でのまどろみはディナーを食べ終わってからのことで、夜の帳に満ちた部屋に焦りすら感じながら、グレゴリオは受話器に手を伸ばした。
「Hello?」
 覚醒からは程遠い頭を何とかしようとグレゴリオが頭を振り、デスクの引き出しからスコッチを引っ張り出してグラスに注ぐまでの間、相手は一言も口を利かなかった。聞こえてくるのは、吹き出す蒸気に似た不気味な音。誰かが消したのか、背中から差し込むぼけた月明かりと、建物から上る炎以外は光らしいものはなく、零したウイスキーに白い光が霞んでいる。最初の一杯を喉に流し込み、一つ咳き込んでから、グレゴリオはもう一度声をかけた。
「ホテル・カリプソ?」
「予約なら番号を間違ってるよ」
「いや、あってる」
 しゅっと短く息を吐き、男は潰すような声で言った。
「グレッグ?グレッグ・レディ?」
「誰だ」
 いくらグレゴリオが苛立ちを向けても、放たれた言葉は送話器を伝って素通りし、受話器まで戻ってくる。本体を引き寄せ、唇を噛んだ。瞼はまだ重いが、頭の方はアルコールのおかげで覚醒の兆しをみせ始めていた。
「おい、聞いてるのか」
「俺だよ。アーネスト」
 今度ははっきりと聞こえる。聞こえたが、すぐにまた不快な息が耳を刺す。
「アーネスト」
 数度の瞬きの後、グレゴリオは笑顔の腹立たしい同業者の名前を探し当てた。役柄は常に正反対だったが、軽薄さでは負けるとも劣らない。
「あぁ、アーニィか。よくこっちの番号を知ってたな」
 瓶のおうとつを指先で撫でながら、グレゴリオはあくびをかみ殺した。
「この前おまえから聞いたんじゃないか」
 アーネストが鋭く言い返す。
「そうだったか」
 教えた記憶はないが、数年前、得体の知れない娼婦を連れたアーネストがホテルで騒いだことははっきりと記憶に残っている。グレゴリオとはそれほど年は変わらないが、余りの飲みっぷりと、部屋の汚しっぷりに、怒りを通り越して苦笑いしか出来なかったこと。悪い人間ではないと知っている。だが、それほど親しい間柄とは思っていなかった。ましてや、こんな真夜中に話をするほどには。
「元気にしてるのか」
「ああ、ああ、元気だとも」