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プリンス・プレタポルテ

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 冷徹であるが少なくとも表面は紳士的なカストロだから、まさかあの美しいホテルになだれ込むという無茶はやらないと信じている(大体弁護士なんて職業をやっていたくらいだ、あの場所には金を持った西洋人しかいないことくらい、あの男なら百も承知だろう)。それなのに、この胸騒ぎ。熱いトタン屋根の猫だって、これほどまでに胸を掻き毟られるかのような痛みは感じなかったはずだ。君の笑顔を思い浮かべるたびに、苦しくなる。血を流すよりも鋭い痛みが、胸を苛む。
 信じない。君の命の炎が吹き消されてしまうことなど。君は生きている、けれど、怯えているに違いない。誓う。私の全ての名誉に誓う。どんな手段を使ってでも私は君の元に帰る。君を救う。何を今更、と軽蔑してくれても構わない。君のもとに駆けつける。二度と顔も見たくないといわれても。それでも、私は君を愛している。何でも犠牲にしてみせる。君を守ることが私の使命なのだ。
 遅くても、今日の夜にはハバナに着くだろう。話で聞いた限りだと、瓦礫の山、屍累々。ビー、命令だ。今すぐその可愛い掌で眼を覆うんだ。君は見てはいけない。君はいつまでも。ノッティンガムに咲く白百合のマリアン。砂漠にひっそりと佇むエリザベス・カスター。そうだろう? 君が望むままに、私は愛を誓う。何でも差し出そう。持てる限りの全てを。だから、私が帰るまでその眼を塞いでくれ。汚らしい外の世界から遮断してくれ。恐怖と混沌から身を隠し、次に君が瞼を開いたとき、君のサファイアよりも輝く瞳に映すものが、跪く私の姿であるように。まるで何事もなかったかのように、再び優しい夢の続きを見られるように。
 私の全てを君に与える。何が欲しい? 私はもう、過去以外何一つ持っていない男だ。それでいいのならば、それでも愛してくれるのならば、生きたままこの心臓をつかみ出すことだって出来る。ビー、君の事を愛している。何よりも。君がいればいい。君だけがいれば。君が愛してくれさえずれば。君無限の愛を、この生ける屍に打ち込んでくれたなら。