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セールス・マン
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プリンス・プレタポルテ

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「しかし、どうなんだい。革命が起こってるって」
「なに、どうってことない」
 ランスキーは肩を竦めた。相手にばれるとわかってわざと嘘をつく。
「万が一カストロの軍がハバナへなだれ込んできたとしても、ホテルは大丈夫さ。あれだけ政府に渡してるし、カストロといえど」
 得心の表情を浮かべた彼を見たところで、誰もこの男がニューヨークを牛耳るギャングだとは思いもしないだろう。
「これから先誰が新しい政府を作ったところで、あの流れはむげに出来ないだろうからな」
 

 事実、外の騒ぎから一切遮断されたホテルの中は至って静かなもので、カストロ軍の侵入が開始してはや4日、ニュースが飛び込んできたときも、突然の銃声に驚かされたときも、従業員は誰一人として慌てることなく不安げな表情の客を宥めた。ベルボーイに至るまで、知っていたのだ。ここはハバナ、アメリカからは遠いようで近い。ホテルの敷地内は、ルチアーノの領地といっても過言ではなかった。
 港湾は全て閉鎖され、空港もろくに動かない。危険を冒して国外に脱出するよりは、ホテルでチップを賭けているほうが遥かに安全だった。観光には適さない状況だが、ディーラーを含む従業員達たちはいつもの倍流れ込んでくるチップに大いなる喜びを覚え、客にも丁寧な態度で接している。ニューヨークで家族と過ごしているマイヤーの適切な指示のおかげで闇取引の物資は簡単に手に入り、宿泊客達は暇に飽かせてダイスを眺め、料理に舌鼓を打つというそれまでと変わらぬ生活を送っていた。一応このホテルのオーナーとして名を連ねるグレゴリオも例外ではない。唯一気がかりだったのは、親指ほどの流れ弾が命中して粉々になってしまったハイヤーのフロントガラスくらいもので、これも別に彼が責任を負わされるわけではなく、酒と言い寄る女に疲れたらこうしてカジノを見回るくらいのもの。到着して2週間。そろそろ、ラスベガスの猥雑な空気が恋しくなっていた。


「いつになったら缶詰から解放されるんでしょうね」
「まだもう少し掛かりそうだ」
 男にコインを返しながら、グレゴリオは苦笑した。
「退屈したかい」
「ええ、まぁ」
 男は気まずそうに手をポケットに突っ込んだ。
「外に出られないっていうのはね」