プリンス・プレタポルテ
金糸の如く細いビーの髪と、背中を擦る固い黒髪。
「いなかったのよ。私の会いたい彼はいなかった」
足元を見ると、黒々とした長い髪が一本、黒い穴に吸い込まれていった。
「そんな中、あなたがいたの。一番綺麗だったから」
私はシャワーを止め、天を仰いだ。身体に添って何かが落ちていく。ああ、ロレンス、君は気付かなかったのか。
「光栄だね」
今、私から失われたものが世界を汚していく。
「いつ出発?」
堅いタオルを差出し、女は静かに首をかしげた。
「そうだな。汗をかかないうちに、と行きたい所だが」
数時間後、夜が明ける前、トラックは走り出すだろう。
作品名:プリンス・プレタポルテ 作家名:セールス・マン