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海野ごはん
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十六夜(いざよい)花火(前編)

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 一博が小さい女性を連れて戻ってきた。誰なんだろ・・・
「おぉ〜い、有田、紹介する。旧姓 前下さん、今は井田加奈子だ」
「えっ!」健三は思わず声を上げた。よりによって加奈子とは・・・。美香はニコニコしている。
「こんにちは、久しぶり〜」照れたような加奈子は二人に向かって挨拶した。
「えぇ〜加奈ちゃん、井田君の奥さんなの〜?」
美香は信じられないという顔で、だけどどこか笑っていた。不思議と嫉妬はなかった。初恋の相手を取られたというのに余裕があった。それは、美香がクラスの中であんまり相手をしてなかった、どちらかと云えばもてない組の加奈子だったからだ。
あの加奈ちゃんが一博となんて信じられない方が先に立っていた。人生は驚きだ。

 健三は大人になった加奈子を見ていた。そして中学の時の記憶をたどる。確か卒業まじかの放課後、加奈子から告白されたのを思い出したのだ。
 別々の高校進学が決まっていた二人は加奈子のしつこいお願いに放課後、誰もいなくなった教室で会うことにした。加奈子からの「好きだ」の告白を邪険に扱い気まずい夕方を過ごしたことを思い出した。あの加奈子か・・・。健三は35年ぶりに見る加奈子を観察した。子供の顔からしっかり大人の顔に変身していた。49歳には見えないいい女に成長していた。お金があるからなのか一博同様どこか昔より垢抜けていた。
「そんなにじろじろ見ないで、恥ずかしいじゃない。もうおばさんなんだから・・」
「そうだよ、有田、あんまり見るなよ不細工な奴だから」
「まぁ、不細工だなんて、よく奥さんに向かって言えますね」
加奈子は笑いながら一博を手で押した。
「加奈ちゃん、綺麗になったね〜」美香は少しのお世辞を含めて言った。
「何よ、美香の方が昔から綺麗に決まってんじゃん。同じおばさんよ」
同じおばさん…同じおばさん…私の方が綺麗に決まってるでしょと美香は大人げなく反応した。

「さあさあ、中に入ろう。みんな誰だかわからないから今日は名札がいるんだ」
そういうと一博は二人にプラスチックに安全ピンが付いた名前札を渡した。
 美香の名前は「有田美香」の下に旧姓が書いてあった。「山崎」これが美香の中学時代の苗字だった。「山崎美香」はクラスで一番もてていた。だから大広間に入ると一斉に男たちの顔が美香の方に向いた。
 しばらく忘れていた「女」という意識がくすぐられた。どこからか拍手が上がる。何の拍手なのか意味があるのか、そういうことはどうでもいいが美香が大広間に足を入れた途端、華やぐ雰囲気に変わった。食品工場の片隅で働くパートの主婦が一夜にしてスターになったような気分だ。美香はしばらくぶりに忘れていた満面の笑顔をみんなに向けた。健三でさえ見せたことがない笑顔だ。いや見せていたのかもしれない付き合ってた頃は。