十六夜(いざよい)花火(前編)
桜が咲く頃、有田家に二通の同窓会の招待状が来た。中学の同窓会だった。クラスメイトの健三と美香はもちろん一緒に出ることになる。時期と場所は、五月の連休に今では取り壊されてなくなった中学校がある隣町の老舗の旅館での開催だった。
「どうする?」美香は、夏に向けて忙しい健三の仕事を気遣い聞いてみた。
「連休か・・連休の何日だ」仕事から帰り、風呂を浴びたばかりの健三がぶっきらぼうに聞く。
「29日。連休の始まりの日みたい」
美香は別に一緒に行かなくてもいいんだけどみたいな気持ちが口に言えない本音だった。できるなら仕事でいてほしい・・。
「あ〜、その日だったら空いてる。休みだ」
「でも、人が集まるとこは苦手なんでしょ?行くの?」
出来れば健三が行かないと言って欲しいと美香は思った。
「久しぶりだからな〜、何年振りだっけ?」
「35年ぶり」
「え〜〜、あれから35年か・・そんなになったんだ・・・・・行こうか」
健三の答えは美香をがっかりさせた。
たぶん、みんなからまだ夫婦なんだと冷やかされるはずだ。同級生ではもう何人も離婚していた。気が進まないのは仲がいい夫婦でなく仮面夫婦だということで負い目を感じるからなのだ。
「珍しいわね、いいの?冷やかされるわよ。私たちがまだ別れてないって・・」
「別れるわけないだろ、なんか、まずいんか?」
やっぱりあなたはこの状況を分かっていないと美香は思った。
所詮、男と女の考えは根本的に違うのだろう。同窓会は幸せ比べなのに、今、平凡であるがこれが幸せだと健三は思ってるのだろうか。いっそクラスメイトでなければ思いっきり女友達に愚痴を言いたいのに。美香は堅物鈍感な自分の夫に対して苛立ちを覚えた。
「じゃ、一緒に行くわけね」
「あたりまえだろ」
何が当たり前なのだろ、夫の当たり前は私の当たり前じゃないのにと美香は健三の「行く」の返事にがっかりしながら毒づいた。
子供が巣立ち、夫婦二人きりの田舎の小さい家は広くなるどころか、窮屈すぎてますます狭いと感じる美香だった。
作品名:十六夜(いざよい)花火(前編) 作家名:海野ごはん