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海野ごはん
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十六夜(いざよい)花火(前編)

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一博は美香と別れた後、夕方に自宅に帰った。
さて、どうしようかが本音だった。美香のことは好きだが不倫の結末までは考えていなかった。今まで二度の結婚をしている。新しい女性ができましたからと言って、すぐ三度目の結婚をするには抵抗があった。   
 しかし、覚悟を決めて美香と不倫の仲になったはずだ。その覚悟も今は現実に直面して迷いが生じていた。このまま突っ走るのか…結構面倒になりそうだ・・・。
 一博はこれからのことを考えると憂鬱だった。ドアを開けた。

「あら、今日は帰りが早いのね」加奈子は一博に言った。
「ああ・・・」
「どうしたの元気がないわね」
「別に・・・」
「ふ〜ん浮気がばれたの?」加奈子は笑って言った。

 一博は脱いでいた靴がひっかかりそうになり慌てた。
 なんで‥と言いたかったが、危うく抑えた。
「ふ〜〜ん、図星みたいね・・・いいわ」
 加奈子はそう言うと自分の部屋に入って行った。
 あいつなんで知ってんだ・・もう健三が連絡したのか・・・。
 一博の頭はパニックだった。
 まさか、まさか・・え〜い、なる様にしかならない。開き直るか・・・


「あなた何か食べる?」加奈子が向こうの部屋から聞いてきた。
「いや、・・いや、いらない」
 そう言うとキャビネットからウイスキーを取り出して来た。滅多な事で家では飲まないが、なんだか一博は飲みたくなった。
 リビングに来た加奈子は一博を見て
「あら珍しいわね・・ウイスキー。私も飲もうかしら」
 そう言うとグラスを取りに行った。キャビネットの中にはしばらく眠ったままのバカラのグラスがあった。
「氷は?」加奈子が言った。
「いや、水だけでいい」
 二人の言葉と言葉の間に微妙な間があるのに一博は気が付いた。
「どうしたんだ今日は珍しい・・」一博が言った。
「あなたこそ・・」
 静かな雰囲気で嫌な感じが漂うのは何故だろう。今日は厄日かもしれないと一博は思った。大体、悪い時には悪いことが重なるもんだ。

 加奈子の表情が見えない。
 こういう時は何か企んでいる時だ。一博は用心した。
「明日は忙しい?」加奈子が聞いた。
「いつもの通りだけど・・」
「じゃ、ヒマなのね」
 皮肉かと一博は思った。
 
 加奈子は一博の態度を見てきっと何かあったに違いない、美香との間に何かあったに違いないと確信した。
 女の第6感は当たる。加奈子みたいに水商売をしたりで男と女の関係をずっと見てきた人間は、その手の雰囲気の類はピンと来るのだ。
十中八九、間違いないと思った。
「あのさ〜、耳が痛いとは思うんだけど浮気の話をしましょうか・・・」
「えっ!」
 一博の心臓は今日2回目の停止をした。
「ばれてんのよ、隠すの下手だから・・・美香でしょ」
「何いきなり言ってんだよ・・・」慌てる一博。
 加奈子はソファーの横に置いた茶色の書類封筒を一博に渡した。調査会社の社名が印刷してあった。一博は大方中身は予想できたが、開けてみた。
 数10枚の写真と、綺麗に浮気のスケジュールが書かれた書類が出てきた。自分と美香が写っている写真はホテルの入り口だったり、キスをしている場面だった。
 写真を通してみるとロマンスでなく、ただの中年の情事だ。真剣でやばい時なのに一博は「あんまり写真写りがよくないな」と呑気なことが頭をよぎってしまった。
 ここまでばれてしまったら、やっぱり開き直るしかない。
「よく調べてるね、これ」冷静を装った精一杯の強がりだった。
「でしょ〜、ここの会社よく調べてくれるの。前もそうだったわ・・」
「・・・・」
 ぐうの音も出ない一博。
「ずっと昔からあなたの悪い癖わかっていたわ。でも、もういいかな〜」
「・・・・」
「ねぇ〜浮気された方って慰謝料請求できるのよね」
「持ってけよ・・・」
「相手の方にもできるのよね、美香にも」
「そこまでしなくていいだろ」
「そうね・・同級生だし、可哀そうだものね・・・」
 加奈子は手に持っていたグラスを飲んだ。いつか来るだろうと思っていた場面だけど、いざこんな場面になると加奈子も少し興奮した。
「大きな声出して喧嘩したくないんだ。用件だけ言うね」加奈子が言った。
 何を言い出すか一博は身構えた。心臓の音が自分で聞こえる。
「明日さ、美香を連れて来てくれない。ちょっと言いたいことがあるの」
「美香は関係ないだろ」
「関係ないことないでしょ。あなたの浮気相手なのよ。それとも大袈裟にする?」
「・・・・なんで呼ぶんだよ。文句言いたいのか」
「・・・そんなんじゃないわ・・・・」
「修羅場はやめてくれよな」
「ふふっ・・・もう修羅場じゃない・・・」加奈子は楽しそうに笑う。
 一博は加奈子のやりたいことが分からなかった。いったい何をするつもりなんだろう。まさか刺したりはしないよな・・・辺りに刃物がないか見渡した。
「穏やかに話すつもりだから大丈夫よ」
「何を考えてんだよ」
「楽しいこと・・・」
「・・・・・」
「ねぇ〜聞くけど、あなた美香と一緒になりたいの?」
「・・・・・」
「まさか遊びじゃないわよね。だったらあなたが刺されるわよ」
 一博はドキッとした。加奈子はいつも自分の想像以上を行く。
 何をしてもかなわないだろうなと一博はおぼろげに思った。
「まぁ、いいわ。明日になればわかるから」
「何が?」
「ほぉ〜っほほっ。お楽しみ・・・」
 加奈子はグラスを持ったまま立ち上がり自分の部屋に帰った。

 部屋のドアに鍵を閉めると加奈子は少し悲しくなった。別に本当に楽しんでいるわけじゃない。出来ればずっと一博とうまくやっていければ、それがよかったのだ。
 だけど、もう一博を受け入れることは出来なかった。いつかこんな日が来るのはわかっていたが、やはり別れは寂しかった。
 同情・愛情・友情どれにしても情があったのには間違いない。加奈子はベッドに仰向けになると涙がこぼれないようにした。