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海野ごはん
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十六夜(いざよい)花火(前編)

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 美香は今日も一博に呼び出されていた。
 ここのところ3日に1回はデートを繰り返していた。また、あの映画館だったり、おいしいと有名なランチ屋さんだったり、そして、つい拒みながらも行ってしまうホテルだったりと、一博のいない生活は考えられないほどべったりだった。
 ただ、地元ということもあり、なるべく町から遠く離れた場所でデートをすることにしていた。さすがに美香の自宅まで迎えに行くことは近所の手前、一博も注意していた。
 待ち合わせも駅前でなく、誰も降りないようなバス停のそばとかにした。やはり心のどこかで背徳感を感じていたのだ。しかし一博のベンツは田舎町では目立っていた。どこかで誰かが見ていた。

「ねえ、一博、一博のおうちは大丈夫なの?」
 美香は迎えに来た一博に向かって言った。
「なにが?」
「加奈子よ・・・。何にも言わないの?」
「あ〜、加奈子か。別に。いつもどこに行こうが気にしてないよ」
「仕事は?」
「外回りと言っている。昔からこのパターンだ」
「このパターンて、こんなふうに遊んでたの?」
「またそう言う。逃げ出したい口実だよ」
「ふ〜〜ん、加奈子はどうしてるのかな?」
「さあ?」
 一博は別にいつもの事だし、仕事が回ってさえいればよかった。
 さて、今日はどのホテルに行こうかと美香には言わないが、よからぬ妄想で頭の中はいっぱいだった。
 外は35度を過ぎてるのであろうか。夏の日差しが車内に差し込みなかなかエアコンも気持ちいい具合に空調を調節できないでいた。




 井田写真館はすでに50年の歴史があった。一時期はカメラの普及で写真プリントやスタジオカメラで潤ったが、デジカメの時代になり、あぐらをかいてるわけにはいかなくなった。
ちょうど加奈子が一博の家にやってきた時、一博は大手スーパーや結婚式場にスタジオを作りカジュアルに写せる記念写真館を計画していた。  
 加奈子は事務の経験もあり人付き合いの交渉も長けていたので、地元の地方銀行と掛け合い、資金を捻出した。加奈子の仕事ぶりは井田写真館ではなくてはならないものだった。そして運よくスタジオ経営は当たり、今では順調に業績を伸ばしつつあった。


 加奈子は自宅の電話が鳴ったので受話器を取った。
「はい井田です」
「恐れ入ります。調査会社のものですが、先日の報告書が出来上がりましたので今からお伺いしようと思いますが」
「あら、もう。いいわよ。お待ちしてます」
 加奈子は一博があの旅行の後、美香を誘いいつもの女癖が出るだろうと予想して調査会社に浮気調査を依頼していた。
 浮気の現場を押さえるのは別に初めてではなかった。結婚して3年目には最初の調査書を手に入れていたのだ。

 浮気癖のある男は一度では止めない。ドーパミンの快楽に負けてしまう。だから、なかなか浮気癖は治らないという。加奈子がその時離婚しなかったのは、水商売時代に何度もそういうたぐいの男を見てきていたからだ。よく言えばというか、あきらめて言えば男の病気の一種でもある。
 加奈子にとっては井田写真館の財産と地位は魅力だった。不倫を持ち出して別れても良かったが、このやりがいのあるスタジオ経営をも捨てるに惜しかった。結局、一博の浮気に目をつぶる代わりに加奈子自身、安定を手にしたのだ。
 しかし、今度は以前とは違った。スタジオ経営も安定して収入を得られるような体制になっている。それに加奈子も50歳が目の前だ。人生をやり直そうとするにはラストチャンスだと思った。慎重に行かなくてはならない。

 人間はいつも、ない物を欲しがる。
 お金がなくても愛があればと若い時は愛を求め、今度は、お金に困ると愛なんか腹の足しにもならないからお金を求める。だから働いて働いて頑張っていると、愛がなくなっていることに気が付く。
 じゃあ今度は、お金もあるし仲良くしようとしてもうまくいかない。冷めた愛は冷めたピザよりもおいしくないのだ。そして愛を探す愛貧民になる。
 加奈子も寂しい人間の一人だった。


 調査書では予想通りというか一博と美香は不倫をしていた。
 加奈子は嫉妬も起きなかった。ただこの手に入れたジョーカーをいつどんなふうに使おうかと考えた。
 旅行の計画を思いついたのは一博だ。ただ夫婦交換ならぬパートナーチェンジを薦めたのは加奈子だ。あの時からこれは想定内だったのかもしれない。
 加奈子は調査書を一博が絶対見ないであろう秘密の場所に隠した。