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海野ごはん
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十六夜(いざよい)花火(前編)

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 「さっきは慌ててしまったなぁ〜」とベンチに座り寝ている健三を見ながら加奈子は思い出し笑いをした。
 ホテルに行ったかどうかは気になるが、それよりも一博に対し、それほど嫉妬や驚きがないことに自身驚いた。つくづくもう一博を想う気持ちはないのだなと自分の心変わりを確信した。
 今まで、散々耐えてきたことも馬鹿らしくなってきた。嫉妬は醜いが自身を成長させてくれるものでもある。どんなことでも卒業はある。卒業がなくても区切りはあるはずだ。もう一博とはおしまいかなと感じていたが丁度今が潮時かもしれない。これから先はわからないけど区切りをつけよう・・・明日からは新しい人生を歩こうと考えた。
 健三はいびきをかいて寝ていた。
 どこに行っても誰がそばにいてもマイペースで変わらなく生きれる健三がいい男に加奈子は見えた。
 寝ている健三の額に加奈子はキスをした。赤い口紅がついたのを見て、慌てて健三が気付かないように手で口紅を消した。
 加奈子の頭上では初夏の風に揺れる桜の葉が音を立てて笑っているようだった。


 観光ホテルの駐車場は大型バスでいっぱいになっていた。ここのホテルはバイキングが有名で食事のポイントが高いので有名だった。
 地元のAクラスの牛ステーキから北海のタラバ蟹まで、食べ放題の1泊2日9800円が売りだった。田舎の旅館にしてはこの観光バスは多すぎる。町の温泉旅館を見渡してもこのホテルだけが一人勝ちのような状態だった。経営努力はどこの世界でも報われるのだ。人気がお客を呼び、お客が宿の品質を上げさせる。相乗効果がうまくいった場合のお手本のようなホテルだった。

 3時間のパートナーチェンジは終わり、夕食の6時までにはあと30分だった。
 健三と加奈子はホテルのロビーで、美香と一博を待っていた。約束の時間から15分は遅れている。
「遅いね〜どうしたのかな〜」加奈子が独り言のように言った。
「楽しい話が山とあるんだろ」
「なんだか心配じゃない?」
「そんなことあるもんか・・・」
「うちの女房に限って…とか言うんだよ」
「お前、つまらない想像するなぁ〜。面白いか?」
「うん、面白い!」加奈子はわざと大げさに喜んで言った。
 自動ドアが開き二人は帰ってきた。
「ごめ〜〜ん、おそくなっちゃった〜」美香は加奈子に歩み寄り拝む真似をした。
「心配してたよ旦那さんが・・」加奈子はわざと大きな声で言う。
 美香が健三の方を見ると「してないしてない」と手のひらを顔の前で左右に振った。
 健三は別にどうでもよかったのだ。遅くなった訳も別に知りたくないという感じだった。
 加奈子は一博の方を見ると
「何にもしてないわよね」と確認するように言った。
 多分、あの望遠鏡で見た二人が気になっていたのだ少しだけ。
 
 一博は肩をすくめて両手のひらを上に向け、外人のようなポーズをした。
「まっ、いいじゃないか、早く食べに行こうぜ」と言ったのは意外にも健三だった。
「なんだか明るくない?」と美香が不思議そうに加奈子を見た。こちらもなんかあったんだろうか疑ってしまう。
「行こう、行こう。お目当てのバイキングだし、さぁ〜行こう」
 加奈子が明るい声で言った。
 全員でバイキングのあるレストランに向かった。