再会
「……わたしはずっとあなたを、和樹さんが帰って来るのを待っていたのよ」
今井は暫く沈黙し、コーヒーを一口飲んでから云った。
「……祥子ちゃんがプロテニスプレーヤーになったことは、ネットで見て知ってたよ。ぼくがコーチをしていたら、そうはならなかったと思うよ」
嘗てはほぼ毎週、今井は翔子を指導していた。それが二年余りも続いた。
「わたしはね、あなたと混合ダブルスの試合に出たくて頑張ってきたのよ。わたしのコーチは、あなただけなの。あなたの教えをずっと守ってきたのよ。それでプロになれたのよ」
翔子のまぶたからまた、大量の涙が溢れ出した。
「ぼくが帰国してお見合いをしたのは、翔子ちゃんが婚約したことをネットで知ったからかも知れない。だから、お礼を云うべきじゃないかと思うよ」
そう云いながら、今井の表情は暗いものだった。
「どんなひと?ねえ、相手の女性はどんな人なの?」
翔子はひどく真剣だった。
「凄く美人じゃない女性だよ。美人の翔子ちゃんを思い出したくなかったからね」
「年齢は?」
「年上でね、子供が三人いる」
「それで、幸せになれそう?」
「まあ、無理だろう。とてもじゃないけど、愛し得る相手じゃない」
今井は苦いコーヒーを飲んでから云った。
「だったら、やめなさいよ。やめて、わたしと結婚したほうがいいわよ」
「ぼくはね、翔子ちゃんがもう結婚しただろうと思っていたんだ」