再会
翔子とは十年以上も前に出会っていた。今井がテニスの最後の試合に出場したそのとき、友人とその妹が応援に来てくれていた。友人の名前は浅村良平で、その妹が翔子だった。彼女はそのとき、大学生になったばかりだった。
試合に負けた今井に、翔子は翌日に電話で云った。
「今井さんはインカレのシングルスで準優勝じゃない。それは、凄いことよ。負けたのはね、ほんのちょっと運が悪かっただけ。落ち込んじゃだめよ」
「応援してくれてありがとう。ぼくはもう、テニスはやめるよ。トロフィーもラケットも、昨日の夜海に棄てたんだ」
「じゃあ、もうわたしのコーチをしてくれないと云うの?」
「ごめんね。そういうことだから、もう、お互いに忘れることにしよう」
今井と翔子は将来結婚することを約束していた。
「それ、どういうこと?」
「もう逢わないということだよ。さようなら」
更にその翌日、翔子が今井の家を訪ねて来たのだったが、彼は旅に出て不在だった。
今井はその後九年間、海外から戻らなかった。
「いつ帰ったの?」
「先月だよ。先月帰国してからお見合いをして、結婚することにしたんだ」
「まだでしょ?まだ、結婚してないのよね?」
翔子の美しい眼に、それを阻止したいという意思が感じられた。
「明日……挙式は明日なんだ」
祥子への抗議が、そのことばには込められていた。
二人分のコーヒーがテーブルに並べられた。