サクラモリ
弔問客の中に、ひときわ目を引く喪服姿の少女があった。彼女は母親に伴って葬儀に来ていた。
透き通るような色白の肌、人間かと疑うくらいに小さな顔、そして今時珍しい、切りそろえられた長い黒髪。
「まあまあ、矢野はん、紗代子ちゃん、よう来ておくれやした。紗代子ちゃん、修行で忙しやろに、ありがとうなぁ」
二人の姿をみとめて、喪主の由利子は手厚く出迎えた。母親の矢野晴子も、元芸妓で相当の美女である。喪服姿の美女三人そろい踏みに、周囲はちらちらを視線をやらずにおれなかった。
紗代子の美貌は並外れていた。父親は役者とも噂されている。芸妓として育つことは幼い頃より自ら望み、また母親からも大きな期待を寄せられていた。中学を卒業してすぐに、舞妓修行に入った。
すでに本日の主役・威一郎は荼毘に付され、遺影の前にあるのは錦織に包まれた遺骨であった。母娘は線香をあげ手を合わせると、由利子と一通り故人との思い出を語った。
「あんたはんのお父さん、うちが一人でお店始めてもよう遊びにきてくれはって。この子もかわいがってもろたし。そらお別れはちゃんとせな思って」
「ほんまそうやったわ。大してお金もあらへんくせに、ええとこにばっかり遊びに行かはって……」
由利子は笑いながら、高い茶屋遊びに出かけて行く父と何度も喧嘩したことを思い出した。話が弾む二人の傍で、紗代子は暁の姿を探した。
暁と紗代子は幼なじみで、紗代子が二つ年上だった。この中では暁がただ一人、紗代子にとって気心の知れた仲だ。中年女性の話の盛り上がりは、紗代子がその場を離れたことを感じさせなかった。