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サクラモリ

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「やってみなきゃぁわからねえな。ジイさんは色々記録とってくれてるが、俺達にゃいじらせてくれなかったからよ」
 遠藤は東京の出身だった。長く京都に暮らしながら、言葉が変わらない。あくまで余所者のスタンスを崩さない彼の、京都人からの受けはよかった。
 この臥龍桜はある寺にあって観光名所にもなっていた木だが、ある時虫が原因で病気にかかったところを、祖父がそれまでの経験と知恵を注いで渾身で甦らせたものだ。
 いずれは祖父からこの桜を譲り受けたいと思っていた。それが高じて彼は進路を造園・土木専攻ができる大学へと向けていた。その前に高校受験だが大学進学を視野に入れての受験校選びはできている。
 だが祖父の死は意外に早く来て、この桜は遠藤に預けられることになった。
「俺がんばって、いつかこの桜の世話するし。それまで、遠藤さん頼むで」
「おう」
「あとおばちゃんのこともな」
 遠藤は携帯灰皿に吸った煙草を押し込もうとして外れ、地面に落としてしまった。
 本日の喪主である、叔母の由利子は近所でも評判の美人ながら、40手前にしてもなぜか独身を通している変わり者でもあった。母のいない暁にとっては、小さい頃から育ててもらった母親代わりのような存在だ。いつかは送り出すものと思っていたが、とうとう今まで来てしまった。時折、この遠藤といい雰囲気になっているのは知っていた。
 動揺を隠しきれなかった遠藤に、暁はこらえられず吹き出した。「このくそガキが……生意気言ってんじゃねえぞ」落とした煙草を拾い、携帯灰皿に今度こそ押し込む。
作品名:サクラモリ 作家名:黒枝花