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6色の虹の話

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4.君との話



「ネット通販始めたんだっけ? 儲かってるん?」
「バイトを雇えるくらいには何とか……でも買うなら店頭の方が安いよ」
「じゃあこれ。挽いて、一杯分ずつ密封とかできる?」
「別料金です」
「じゃあお友達割引で」
 指差されたのはうちの中ではかなり良い値段で、わりと珍しい豆。
 ポップに書いてあるのに少し補足説明をして、それでいいという了承を得て豆を挽き始める。
「珈琲はあんまり興味ないんじゃなかった?」
「私はね。あ、今のお豆の一杯ちょうだい」
 幼馴染よりも姉や兄と呼んだ方がしっくりくるような。
 いや、正確に言えば女性なので姉と呼ぶべきだが、どうしても異性というより同性の兄弟と話しているような気分になるような。
 挽いたばかりの豆で淹れた珈琲を出す。
「ヤスくんとこの珈琲、好きだなぁ」
「ありがとうございます」
「照れてる?」
「いや? モモセには照れないよ」
「ん? どういう意味?」
 首を傾げはしたものの基本的にそんなに気にはなっていないのだろう、再び珈琲を飲み始める。
 その前でまた珈琲豆を挽く。
 今日は他に客がいない。その気安さもあるのだろう。
「珈琲ね、好きみたいなの」
「みたい?」
「うん。いつも頼んでるから」
 湯気の向こう、モモセが幸せそうに笑う。
 その目に映っているのが誰かなんて聞かなくても分かる。
 好きな子ができたと嬉しそうに言っていたのが約半年前。
 長い付き合いで初めて聞いた恋愛の話に驚いた。
 とはいえ自分も男性女性ともが恋愛対象だし、現在の片思いの相手は同性だ。モモセの相手が一回り年下の女性だということに驚いたのではなく。
 そんな風に誰かのことを愛おしく語る言葉を、その表情を――初めて見る彼女に驚いただけだ。
「ヤスくんの方はどんな?」
「いつもどおり」
 定休日の時は知らないが、平日は大体12時前に来て45分くらい居て帰る。土日はまちまち。
 カレーのある日はカレー。付けるのはご飯よりもパンの方が好き。
 次に和食系。サンドイッチなどのパン。最後がドリアなどが好きなランチメニューの順。
 野菜より魚。魚より肉が好み。
 独りで来ることが多く、水は二杯、珈琲は濃い方が好み。
 必ずご馳走様でしたと声をかけてから、外へ出て行く。
 同じ指向の持ち主のような気はするが、確証はない。同年代の男性で片思いの相手。
 喫茶店の店主と客。それ以上にはならないし、今の状態を動かそうと言う積極的な意思はない。
「声かけたりしないの?」
「しない。俺は臆病だからね」
 好きになったら一途。
 そんな年じゃない。いや、同い年のモモセにそれを言うと年齢は関係ないと笑い飛ばされるか。
 挽いた豆を測り、密封する作業に没頭するフリをして会話を消す。
 ふぅふぅと猫舌なモモセが珈琲を飲み干す頃、珈琲の密封作業も終わった。
「私はそろそろ告白したくて仕方ないんだよなー…慰めてね」
「振られること前提なの?」
「前提ですよ」
 少し考えて。
 詰め終わった小袋を珈琲の保管用に売っている赤い缶の中に入れて、可愛くラッピングをする。
 同士というか、何というか。
 俺からの頑張れのおまけ。
 バレないように。見えないように。紙袋に入れて隠す。
「だって相手は可愛くて同性で年下で可愛くて可愛くてノンケさんだもん」
「…自虐的なフリをして惚気たな」
「いいじゃん。ヤスくんにしか惚気ないんだし。はい、お金」
 値段ぴったりのお金を置いて、ご馳走様と扉から出て行ったモモセの背中を見送って。
 次に来たときは今買われて行った豆で珈琲を淹れて奢ってやろうと決めた。
 そしていい加減、自分も不毛な片思いが続くこの現状をどうにかしよう。



作品名:6色の虹の話 作家名:くろ