十七歳の碧い夏、その扉をひらく時 <第一章>
後ろから小谷が追いかけて来た。俺の態度が気に食わないのか、声を荒げながら早足で近づいてきた。本当に面倒な女だ。俺は歩くスピードを変えずそのまま玄関へ向かい、外靴に履きかえた。
その時、突然ゴーッという音がして地面がゆらゆらと大きく揺れるのを感じた。震度四ぐらいだろうか。背後で「キャッ」という小さな悲鳴が聞こえた。振り向くと、頭を両手で覆った小谷がうずくまっていた。グレーのタイトスカートから伸びる細い脚は小刻みに震え、肩まである黒い髪の毛は手で押さえつけられてグシャグシャになっていた。
揺れはなかなか収まらなかった。大きな横揺れで下駄箱に収まっていた靴がいくつか頭上に落ちてきた。俺は咄嗟(とっさ)に後ろへ数歩下がり、頭と体をすっぽり包むようにして小谷に覆いかぶさった。揺れは数秒後に完全に収まった。だが小谷は顔を上げられず、体を小刻みに震わせている。生徒たちが騒いでいる声が聞こえてきて、俺はハッと我に返った。すぐに小谷から体を離して立ち上がると、自分の靴を手に持って玄関を出た。
作品名:十七歳の碧い夏、その扉をひらく時 <第一章> 作家名:朝木いろは