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朝木いろは
朝木いろは
novelistID. 42435
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十七歳の碧い夏、その扉をひらく時 <第一章>

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 進路指導室と書かれたドアにもたれかかっていると、小谷が廊下の向こうから小走りで駆け寄って来た。そして、手に持っているカギで解錠し、俺にも入るようにうながした。小谷は二人掛けのソファーに足を組んで腰をかけ、俺には向かい側の三人掛けの茶色のレザーソファーに座るように言った。
「悩みがあるんでしょう? だからそんな態度を取るのよね?」
 小谷はなだめるような声で俺の目を見つめた。
「いいえ、何も話すことはありません」
「片桐君の家はお母さんひとりで子育てをされているんでしょ。それなら大変よね」
「大丈夫です」
「無理しなくていいのよ。私はあなたの担任なんだから。ちゃんと正直に話してみて。力になるから」
 小谷はしつこかった。俺が感情をあまり表に出さないのをいいことに、お節介オーラを発したまま二十分以上も説得を続けてきたのだ。
「私は片桐君が心配なの。今まで、母子家庭の子を何人か見てきたけど、どの子もいろんな問題を抱えていたわ」
「俺のどこに問題があるって言うんですか? 授業に出ないからですか?」
「それもあるわ」
「じゃ、本当の事を言いましょうか。うちの学校はレベルが低い。俺にとっては昼寝の時間でしかないんですよ。どっちにしろ授業なんか出たって出なくなって同じです」
「たしかにあなたは成績優秀だわ。学年一位の実力だってある。でもね、学校は勉強を教わるだけの場ではないのよ。人間関係とか道徳とか、そういうことも学んでいく場なの。だから、いくら成績が良くても授業をサボってはいけないわ」
 俺は何の反応も示さずに黙っていた。すると、小谷は少しイライラしたような口調で言い放った。
「片桐君、聞いてる? 返事くらいしてちょうだい」
「時間の無駄なので帰ります」
 呆気に取られている小谷の返事を待たず、俺はドアを開けて廊下へ出た。