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朝木いろは
朝木いろは
novelistID. 42435
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十七歳の碧い夏、その扉をひらく時 <第一章>

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 歩いて五分もしない場所にバス停がある。そこからは病院行きの直行バスに乗ればいいだけだ。時間を確認し逆算してきたのに、バスはまだ来ないようだ。時刻表によれば五十分には来るはずなのに、今日もバスは十分以上遅れている。俺は昔から待つのが大嫌いだ。苛々する気持ちを抑えられず、目の前の「停留所」と書かれた棒を足で蹴り上げた。ゴツンという大きい音と共 に、すすけた銀色の棒が少しへこんでしまった。
 少しやりすぎたかもしれないと罪の意識を感じていると、ふいに背後から若い女の声がした。
「ひどい……」
 振り返ると、裾がふわりと広がった膝丈の白いワンピースに黒いストッキングを履いた美女がセミロングの髪を肩で揺らしていた。胸元には大きな赤いリボンがついており、丸い襟の下には校章が小さく刺繍されている。見覚えのあるこの制服は、聖ミカのものだ。
「物に八つ当たりするなんて」
 女は呆れたような顔を浮かべ呟いた。丸くて大きな瞳が俺をキッと睨みつけた。
「子どもだって見ているのに。私が今ここで通報したら、器物損壊で捕まるんだから」
 バス停に並ぶ親子連れの視線を背中に痛いほど感じる。
「ねぇ、ちょっと! 無視してないで何とか言いなさいよ」
 女は赤い唇を尖らせながら、一歩、二歩とジリジリ近づいてきた。そしてあと数センチでお互いの体がぶつかるというところで、バスがプシューと大きな音を立てて急停車した。十分以上の遅れを取り戻すかのように、荒い運転でもしてきたのだろう。いつもの停車位置より十メートルほど離れて停まった。俺は高鳴る心臓の音を耳の奥で聞きながら、目の前でドアが開くのをスローモーションの映像を観るかのように見つめていた。まるで風邪を引いた時のように、頭が熱くボウっとしている。