十七歳の碧い夏、その扉をひらく時 <第一章>
携帯から流れる着信音で目が覚めた。おもむろにベッドから上半身だけを起こし、木製のサイドテーブルに手を伸ばす。壁にかかった時計を見ると、時刻は朝八時を回っていた。
「せっかくの休みなのに。なんで携帯なんかに起こされるんだよ」
文句を言いながら画面に目をやると、メールが一通届いていた。今週末にオフ会をやるから駅前の「黒猫モジャカフェ」に集合と書いてある。差出人 は、自分自身を“アタシ”と呼ぶあのオカマだ。
俺は基本的に面倒臭そうなものには近寄らないようにしている。よって、オフ会なる集まりにも顔を出す気は毛頭なかった。
「今日は病院の日でしょ? ちゃんと行くのよ、わかった?」
母さんが心配そうな顔で、皿を洗う手を休めてダイニングテーブルに座る俺の方を向いた。
「わかってる。これから行こうとしてたんだよ」
「せっかく開校記念日なのに。可哀想ね。悠ちゃんの足を噛むなんてどこのバカ犬なの? 躾ができてないペットなんて歩かせるべきじゃないわ。こっちは三針も縫う怪我だっていうのに」
俺は「大丈夫だから」と小さく言うと、ぬるくなったコーヒーを一気に飲み干して席を立った。
作品名:十七歳の碧い夏、その扉をひらく時 <第一章> 作家名:朝木いろは