十七歳の碧い夏、その扉をひらく時 <第一章>
「その足、一体どうしたの?」
教室に入るや否や、あかねがギョッとした顔で飛んできた。
「別に」
「機嫌悪いなあ」
あかねは小さくつぶやくと、「悠は秘密主義だもんね」と言いながら隣に座る洋人の方を向いた。
「悠が怪我するなんて珍しいじゃん。部活なんてとっくに辞めたのにな」
「さっき足引きずってたもんね。なんか痛そう」
あかねは早口でそう言うと、「いつでも肩貸してあげるよ。悠なら大歓迎」と明るく笑った。洋人はそんなあかねを見て、不満そうに頬を膨らませた。
「俺にはやってくれないのかよ」
「そういうわけじゃないけど」
あかねは逃げるように「先生来たよ」と言うと、自分の席へ戻って行った。
「じゃあ一時間目の授業を始めましょうか」
白いブラウスの上にベージュのジャケット、そして黒い膝丈のタイトスカートを履いた小谷が教室の壇上に立った。スカートから伸びる足をじっと見ていると、隣に座る洋人が俺の足を軽く蹴り、こそっと耳打ちをしてきた。
「あとで消しゴム落とそう。チビ谷がこっちに来た時に」
作品名:十七歳の碧い夏、その扉をひらく時 <第一章> 作家名:朝木いろは