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朝木いろは
朝木いろは
novelistID. 42435
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十七歳の碧い夏、その扉をひらく時 <第一章>

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 紺色の前開きパーカーを手に取り、財布をポケットに入れ、そのまま玄関を出た。夕焼けを眺めながらぼんやりと川沿いの土手を歩いていると、急に何かにぶつかった。 キャンという甲高い声と共に足に鋭い痛みが走る。下を見ると、白い物体が足首に食らいついてた。
「すみません! 大丈夫ですか?」
 女にしては低く、男にしては高い奇妙な声がした。男は数メートル後ろから全速力で俺の方に走ってくる。
「コラ! モコ! ダメじゃないの!」
 白い物体は犬だった。モコと呼ばれる犬は、俺の右足首に噛みついていたようで、ジーンズの裾を少し上げると、白い靴下に赤いシミが広がっていた。その男は血を見ると顔を青くして、「キャー大変! 今すぐ手当をしないと」と大げさに悲鳴を上げながら、俺の足首にそっと触れた。そして「あの、病院がすぐ近くにありますから一緒に……」と慌てふためいた様子で言った。
「触んなよ」
「え?」
「だから、触んなって言ってんだよ」
 男はあわてて俺の足首から手を引いた。
「お前、犬の躾してないだろ。ちゃんと紐ぐらい持ってろよな」
「血が出てるし念のために病院に行った方がいいわ。あと、これは紐じゃなくてリードって言うの」
「そんなことよりさ、さっさと消えてくんないかな」
 男はオロオロしたような表情で、再び足首を見つめた。
「消えろって言われても、アタシこのままじゃ帰れない。ダメよ、絶対にあなたを置いて行けない」