かにとらいおん
草原は青々と大地を覆い隠していました。
太陽は、其処で生きるもの、草原に 溢れる陽射しを注いでいます。
その草原を一匹のライオンが歩いていました。陽射しに たてがみを煌めかせて、ゆったりとした姿は、『百獣の王』の凛とした風格ではなく、ともに草原で暮す生きものという穏やかな表情をしていました。
もちろん、其処に暮すものは、草食のものだけではありません。
トムソンガゼルの子どもが、居なくなったり、残骸に はげ鷹やブチハイエナが、群がったりと、日々、何かが起きていました。
でも、ライオンは、腹を空かせているわけでもなく、そんなことなどに感心がありませんでした。
ライオンは、草原をひとしきり歩くと、水辺にやってきました。
きらきらと陽の反射する水面は、美しく輝いていました。水辺に行くことがなかったライオンは、その輝きに魅了されていきました。でも、水際に向う足は、好奇心と警戒心で、出しては引っ込めの繰り返しでなかなか進みません。
やっと、水際に足を止めたライオンは、その景色をしばらく眺めていました。
時折、水面が跳ねたりします。
そのたびに、水面にできる波紋が広がり、消えていく様をただ眺めていました。
草原で、誰かが話していたこと。風が運んできたにおい。思いを巡らし想像していたこと。
そんなことなど なんだったのかと、目の当たりにみる輝きで消えていくようでした。