アイスエンジェル
僕は少しだけ疑問に思った。確かに火はいつの間にか強く燃え盛り、室内の温度はどんどん上がっていった。
「暖炉は、ここだけしかないのか?」
「ううん」華彩は否定する。「他にも二階と三階、あと寝室にも簡易暖炉があるよ」
「そうか」
僕は華彩に歩み寄る。「どうしたんだ?汗がすごいぞ」
「吉岡くん、知ってるでしょ?」
華彩は僕から一歩後ずさった。
「私、昔から身体が弱くて」
「ああ、知ってる。昔から夏はあまり登校しなかったよな。来るのは、雨が降っている日ぐらいだった。あとは秋頃から冬にだけ、いつも登校していた。身体が弱くて、あと紫外線を浴びることができないからって先生は言ってたよ」
僕は華彩の手を取った。華彩はピクンと身体を震わせた。「すごく、冷たい手だな」
「それは、吉岡くんだって同じでしょ?すごく冷たい手」――でも、この手、すごく好きだなと華彩は言う。
「どうしてわかったんだ?」
僕は華彩に質問する。
「なんのこと?」
「この山荘は切り立った崖になっている。もしあの時、僕が反時計回りにこの山荘の入口を探していたら、崖から落ちてたかもしれない。でも華彩、君はあの時、時計回りにしようと言った」
「それは……」
「それだけじゃない。どうしてドアが開かないなんて嘘をついたんだ」
僕は詰め寄った。
「嘘なんて、私言ってない。それに、本当に開かなかった」
「ああ、確かに開かなかった。でも、扉の施錠がされているかどうかなんて普通、ドアノブを引いてみるか押してみないとわからないじゃないか。あのドアノブには雪が積もっていた。華彩、君はどうやって知った?ドアノブを握らずに、どうやって扉を開け閉めしようとしたんだ?」
「それは……」
暖炉の火はますます強くなる。それにつられて華彩の顔からも汗が大量に落ちる。
「できるだけ、気づかないようにして今まで生きてきた。でも、そろそろ限界だ」
僕は今まで感じていた疑問を口にした。
「君は――」
あの時の雪女か――そう言い終わる前に、華彩は床の上に崩れ落ちた。