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『喧嘩百景』第10話榊征四郎VS碧嶋真琴

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 真琴が本気である以上、征四郎が受けるつもりならそれを止めることができるのは羅牙だけなのだ。
 しかし、
「真琴ちゃんを信じなさいって」
羅牙はいたって呑気に手を振った。
 彼女はこれまでに何度か真琴が「抜く」ところを目撃していたが、相手にかすり傷以上の傷を付けたところは見たことがなかった。美希は、こと真琴のことになると過剰なのだ。
 榊征四郎は手加減などしていない。ただ反撃していないだけだ。真琴の腕は信じていい。羅牙は真琴の剣先を目で追った。
 空気を割(さ)いて刀身が弧を描く。
 「覚悟!!」
 真琴は渾身の力でそれを振り下ろした。
 二人の足元からすうっと風が吹き寄せる。
 きぃんと微かな音がして。
 剣先は征四郎の頭から十数センチのところで止まっていた。
 ――よし、止まった。
 羅牙は美希にちらりと視線を送った。
 だが。
 違う――。羅牙はすぐに二人に視線を戻した。真琴ちゃんが止めたんじゃない――。
 「真琴さん――」
 征四郎は居たたまれない様子で口を開いた。
「お姉さんに許可をいただいてからと思っていたのですが――、俺と――、その、お付き合いしていただけないでしょうか」
 美希がぽとりと鞄を取り落とす。
 ――なんて間の悪い告白。ぶきっちょにもほどがある。
 羅牙は美希の鞄を拾ってやって、ついでにぽかーんと開いた口もふさいでやった。
 「あいつ、榊征四郎、優等生みたいな顔しやがって。とんだ食わせ者だな」
「何で?」
 美希は羅牙の言葉に目をぱちくりさせた。
 「まじめに剣道やってる奴があーんな止め方するかよ」
 あんな。
 征四郎は真琴の真剣に木刀の柄(つか)を尻から垂直に食い込ませていた。しかも、それでも止められなかった剣を、左手首の腕時計で受け止めていた。
 「一つ間違ゃ、両腕ぱあだよ」
 羅牙の言うとおり、刃が僅かでも横に滑れば左手首は両断される。左手の支えがなければ柄(つか)を握った右手だとてただでは済むまい。
 「何て無茶を」
 美希はもう一度口をあんぐりと開けた。