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『喧嘩百景』第10話榊征四郎VS碧嶋真琴

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 長いストレートの髪を頭の上の方でポニーテールに結んだ娘。
 「真琴ぉ」
 娘は帯で仕立てた刀袋を持っていた。
 「真琴さんっ」
 征四郎は両手をその刀袋に入っているもので弾かれて後ろへ跳び退いた。
 碧嶋真琴――美希の妹だ。
 「姉上を襲うとは不届き千万」
 真琴は刀袋に入ったままのそれを構えて美希の前に立ちはだかった。
 「真琴さんっ、俺はっ」
慌てて手を振る征四郎に、
「問答無用!!」
真琴は打って掛かった。
 征四郎は反射的に、持っていた木刀で受け止めた。中学一年生の少女のものとは思えない重い一撃。
 真琴は自分より一回りも二回りも身体の大きな征四郎を力尽くで弾き飛ばした。
 間髪を入れずに打ち掛かる。
 重さ数キロはあるはずのそれを軽々と振って征四郎を攻め立てる。
 「真琴さんっ、誤解だ、俺はっ」
 しかし、征四郎はその真琴の攻撃をすべて受け止めていた。
 「さすが剣道部期待の星。真琴ちゃんと互角に立ち合ってるじゃないか」
不知火羅牙は面白そうに美希に囁いた。
 彼女は相棒の妹、真琴の腕前を良く承知していた。真琴が幼い頃から鍛錬しているのは剣道ではなく剣術だ。真剣を手にして敵に当たるための技術は、剣道とは全く違う。
 「真琴さんっ、話を聞いて下さいっ」
 受ける一方とはいえ、真琴の太刀筋を見極められるというだけでも、榊征四郎は大したものだと言えた。
 「まずいよ、征四郎くんがこんなにできるなんて」
 いつもは楽天家の美希も妹に関してだけは楽天的にはなれなかった。真琴の性格は苛烈だ。プライドも高い。剣の腕にもそれなりの自信を持っている。その真琴の剣を楽々――少なくとも美希にはそう見えた――受け止めるなんて。
 「久々に真琴ちゃんが抜くところが見られるな」
 美希の心配を余所に羅牙は楽しそうだ。
 「他人(ひと)事だと思ってさ」
 美希は頬を膨らませた。
 真琴は真剣を持ち歩いている。放っておくと何をしでかすか判らない。今までにも何度かそれを抜いたことがあるのだ。笑って見守るには危なっかしすぎる。
 しかし美希を守ろうとしているときの真琴は、当の美希の言うことでさえ聞こうとはしないのだ。止めるには実力行使しかない。
 「羅牙、面白がってないで止めてよね」