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篠原 ランチデート

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「おいしくならなくてもいいけど、体重は増えたほうがいいと思うわ。明らかに痩せすぎです。」
「そう言われてもね? 脂っこいものは苦手だし・・・食事量も少ないから、それは無理なんじゃないかな。・・・あのね、雪乃、蔡さんが、ごはんを奢ってくれたんだけど、申し訳ないから割り勘にしてくれるように頼んでくれない? 」
 金曜日は、蔡さんが先に支払いをしてしまった。月曜からは割り勘で、と、お願いしたら、「絶対にダメです。」 と、笑顔で全力で断られたのだ。
「別にいいじゃないの。蔡は勝手に、あなたを連れ歩いてるんだから。」
「・・・たぶん、高いよ? あれ。」
「蔡は高給取りよ? 私のほうから返しておいて上げるから、食べさせてもらいなさい。だいたい、蔡がランチデートしてるのが腹がたつのに。」
「はい? 」
「私だって、篠原君とランチデートをしてみたいと思うわよ。でも、さすがに時間が空けられないの。」
「じゃあ、明日、ランチデートする? 」
「いや。篠原君の料理がいい。」
「料理ってほどじゃないけどね。焼くか炒めるぐらいだから。」
 以前は休日に、手の込んだものも作っていたのだが、怪我をしてからは、あまりやっていない。今日なんか実家から、母の料理を貰ってきた。あまり疲れるような作業はするな、と、母も心配するし、雪乃もやらなくていい、と、言うからだ。
「でも、私のために作られる料理というのが重要なのよ。おわかり? 篠原君。」
「そうかなあ。よくわからない。それに橘さんが来るかもしれないよ? 今日は暇にしてるはずだから。」
「来たら追い返す。」
「いや、雪乃? 別に一人増えるぐらいいいだろ? 」
「よくないです。この休日は、私が篠原君の独占を宣言します。」
「しなくていいです。・・・・やっぱり、こっちに帰って来ようか? 平日も、こっちにいるほうが何かと便利だよね? 」
「いいえ、まだ実家に居座っててちょうだい。何かあったら大変でしょ? 」
 怪我をする前から、僕は平日は実家のほうで暮らしている。休みの日だけ、こっちに戻って雪乃と顔を合わせているのだ。家事全般が不得手な人だから、そこいらは気になっているのだが、それも母も雪乃も許可しない。体調管理を実家でしてもらうほうが安全だと、どちらもおっしゃる。すっかり、怪我も治ったというのに、どちらも過保護だ。
「もう、なんにもないと思う。」
「お風呂で眠り込む? 階段を踏み外す? ソファで居眠りをする? 誰かが侵入して襲われる? さて、他にあるかしら? 」
「襲われる? それこそないよ。まあ、他はありそうだけど。」
「ほら、ご覧なさい。風邪なんかひいたら大変なのよ? 私が早く帰れる日ならいいけど、遅かったら確実に風邪をひくわよ。」
 確かに、今、風邪を患うと問答無用で義理の兄に病院へ叩き込まれるだろう。体力がないから、ただの風邪でも危ないからだ。
「実家で、お母様の世話を受けているほうが、私も安心していられるわ。・・・ああ、ランチデートはしなくていいけど、散歩はしたいな? 」
「了解。何かスイーツでも探そうか? 」
「そうね。果物でもいいかしら? 」
「僕は、どちらでも。」
「じゃあ、まいりましょう。」
 唐突に、そう言い出して、雪乃は立ち上がる。言い出したら速攻の人なので、僕も戸締りをするために立ち上がる。週末、いつも、こんな感じで、のんびりと過ごしている。



 月曜日の朝に、曹さんから連絡が入った。ランチ会議はしないで、おやつ会議にしようという変更だった。会議とは言っても、正式なものではないから、お菓子を食べながら、ということだ。
「蔡ババアから、いちゃもんが来た。」
 まったく、と、曹さんは酷いことを言っている。蔡さんと食事して戻ったら、そのままオヤツでも食べつつ話をすることにしようと言う。
「すいません、曹さん。蔡さんが、こっちにいる間は、僕が食事の時の話し相手をすることになったんです。」
「・・・・それだけじゃないけどな。」
「え? 」
「いや、まあ、いいよ。蔡ババアのやることは、逆らわないのが得策だ。・・・ていうか、おまえも大変なのに気に入られてるよな? 篠原。」
「優しい人ですよ? 蔡さんは。」
「うん、おまえにだけはな。オヤツ会議は江河も参加できるのか? 」
「大丈夫だと思います。りんさんはランチ会議も出られるはずです。」
「いや、蔡ババアから、江河も借りるって断りが入ったから、おまえら、二人とも連行されるぞ。」
「そうなんですか。・・・・戻ったら、そちらの課へ顔を出します。」
「おう、そうしてくれ。」
 曹さんのところは、設計部門でも、ちょっと特殊で、他の部門が組み立てたパーツを設計図上で纏める仕事だ。これが、なかなかパッケージに収まらないことが多くて、そのところで意見を求められる。今回は、小型の輸送艇だから、いろいろとオプションがあって難航しているらしい。前日に、僕らのほうにもデータをくれる手筈だから、りんさんと詰める予定だ。
「蔡ババアもえげつないな。」
 対面の席に居る橘さんが、ぼそりと呟いた。
「ん? 」
「大旦那、たぶん、蔡おねーさまが、ではなくて、どこかの女王様が、だと思うんだけど? 」
 さらに、ジョンが付け足して笑っている。りんさんも、無言だが深く頷いていた。
「なに? ジョン。」
「蔡おねーさまの目論見は、おまえへの愛の告白を阻止することだ。そうそう、おまえに告白するのはいないと思うけどさ。でも、知らないでするのはいるだろうからな。」
「愛の告白? なんで? 」
「極東の風習だ。十四日はバレンタインデーと言って、女性から男性に愛の告白をする日なんだよ。」
「僕に? それはないと思うなあ。うちには、そういうのの担当が、二人もいるんだから。」
 うちの課には、交際華やかな人間が二人もいて、そういうものは、そちらが担当している。イベント前後は、りんさんとジョンの机はプレゼントの山が築かれる。
「俺はパスだぞ? 篠原。あんなもの、貰っても嬉しくもない。ジョン、そっちは任せる。俺は、当日は雲隠れだ。」
「任されてやるよ、りん。ただのラブイベントなんだから盛り上がればいいのさ。」
「ちょっと待って。それで、どうして蔡さんはえげつないんですか? 橘さん。」
 別に、そういうイベントはいい。科局でも、季節ごとのイベントの時は何かしら盛り上がっている。ただ、僕への告白の阻止というの解せない。
「蔡ババアは、これ見よがしに、おまえを連れ歩いて牽制してんだよ。おまえには、自分が居るから告白なんぞ受け付けないってな。」
「蔡さんが僕に告白するんですか? 」
「しねぇーよ、バカ。どっかのバカが、やらせてやがるんだろ? 」
「誰が? 」
 篠原の質問に、三人はがっくりと肩を落とす。これほど大掛かりにやるのは、たった一人だし、それも容赦なく排除もする危険な女が、篠原の傍に存在しているのに、当人は気付かないらしい。とはいうものの、それをバラしたら、確実に報復されるのは目に見えているから、橘も、それ以上には言わない。仕事だ、と、立ち上がり、部屋を出て行った。
作品名:篠原 ランチデート 作家名:篠義