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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 2 御前試合

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 アミサガンを出て二日。一行がジュロメを目前にした山中を歩いている時、ジュラが思い出したようにエドに尋ねた。
「そう言えば魔法って何なんですか?ジュネに聞いたのですが、あちらのお兄さんは時間を止めたとか、なんとか。」
「え・・・魔法のこと?なんで今更。」
「何でと言われましても、その概念がよくわからないものですから。」
「でも、魔法なんて強いとか弱いはあっても、誰でも生まれてきたときに一つ持っているものじゃないの?」
「そうなんですか?」
「そう・・・だと思うんだけど。え?違うの?」
 ジュラの質問の意図がわからずにエドが首をかしげていると、後を歩いていたクロエが小走りに近寄ってきてエドに助け舟を出した。
「あなた、ケット・シーなのよね?」
「はい。」
「なら、その概念はわからないかもしれないわね。あなた達に備わっている変身能力の部分が、私達人間は、個人個人で別の能力になっているのよ。私だったら、空間移動だったり、レオだったら時間停止。皇子は炎を操るし、リュリュ様は命の炎に干渉することができるの。」
「なるほど、人間は種族ではなく、個人に能力が宿るということですか。勉強になります。」
「まあ、私もよくわかっているわけじゃないから、もっと詳しく知りたいなら、図書館で調べて。多分、アミサガンの図書館なら蔵書も多いし、もう少し詳しいこともわかると思うから。」
「いいえ、充分です。ちょっと興味があっただけですので。ありがとうございました。」
「クロエってすごいね。火おこしとか、野外でする料理とか。それにいろんな事を知っているし、魔法の制御も完璧だし。アレクがクロエなら大丈夫って言った意味がよく分かるよ。」
 クロエの話をきいていたエドが、感心したように手を叩きながら言う。その声を聞いて、クロエはビクッと反応し、その場に跪いた。
「・・・差し出がましい真似をして申し訳ございません。」
「なんであやまるの?本当にクロエって凄いなって思っただけで、差し出がましいとか、そういうことを言ってるわけじゃないよ。」
「もったいないお言葉でございます。・・・私は後ろで控えておりますので、何かございましたらお声かけください。」
 そう言って一礼すると、クロエは隊列の一番後ろへと下がっていった。
「もっと話していてもよかったんですよ。せっかくですし、もっと仲良くされればいいのに。」
 戻ってきたクロエに、ルーはニコニコ笑いながら、そう声をかけた。
「別にそんなつもりないし・・・。大体、あんたを放っておくと、また迷子になっちゃうでしょ。」
「そんな、人を皇子みたいに言わないでくださいよ。」
「皇子も同じ事を言っていたわよ。あと、アリスもね。」
「ええっ、皆ひどいなあ。・・・ところでクロエさん。このままでいいんですか?」
 軽くおどけたように笑った後で、ルーが突然真顔になった。
「いいって、何が?」
「エーデルガルド姫のことですよ。このままにしておいたら、皇子と彼女がくっついちゃいますよ。」
「別に。いいんじゃない?国を取り戻せば、彼女は一国の王女様。身分だって申し分ないし、リシエール復興後も、リシエールに対する政治的な介入だってしやすくなる。皇子にとって、良い事尽くめじゃない。」
 どこか達観したような、諦めたような表情で言うクロエの肩を抱き寄せて、ルーは耳打ちをする。
「付き合いも長いですし、僕はクロエさん派ですからね。もし貴女が望むなら、エーデルガルド王女を・・・。」
 笑顔の裏に腹黒い物をのぞかせながら、言いかけたルーの言葉をクロエが視線で制する。
「そのバカな思考を捨てなさいって、この5年間何度も言ってきたわよね。それができないなら、あたしがあんたを殺すとも言った。元々、暗殺者だったあんたとカズンを拾ってくれた皇子の恩を仇で返すって言うなら、今ここであたしがあんたを殺す。わかった?それと・・」
 クロエはそう言って肩を抱いていたルーの手を叩いて、彼を引き離すと少し睨みつける。
「馴れ馴れしい。」
「そうですねぇ、あなたの肩を抱いていいのは皇子だけですよね。」
「ルー!いい加減にしなさい!」
(ぜーんぶ、聞こえてるんだけどにゃあ・・・)
 周囲の警戒のために変身を解いて元にもどしていた耳をピクピクさせながらメイは苦笑いを浮かべた。
「どうした何か異常か、メイ。」
「ううん、異常なし。まあ、異常があると言えばあるけど、かわいいもんさね。」
「どういう意味だ?異常があるなら早めに解決しておいたほうがいいだろう。」
「あーあー。ほんっと、ヘクトールは面白みがないなあ。ねえ、レオ。」
「まあ、おっさんの面白みがないのは今に始まったことじゃないけどな。でも異常があるなら、対処したほうがいいってのは、俺もおっさんと同意見だぜ。」
「異常ったって、そういう話じゃないし。まあ、惚れた腫れたのお話。」
「そういうことか。なんとなく解ったわ。クロちゃんの事だろ。たしかにエドとは複雑だろうし。」
「ああ、そっか。あんた、あの子と付き合い長いって言ってたっけ。でもあの子、自分の中で整理はつけてるみたいよ。エドと皇子がくっつくならそれはそれで構わないってさ。」
「ま・・・本当にそうならいいんだけどさ。結構根深いと思うぜ。姉のほう同様さ。」
「ありゃ。姉のほうも皇子にご執心なの?」
「いや。姉の方は別口。姉のほうは姉のほうでかなり面倒な相手だったりはするけどな。」
「ふーん・・・。」
「二人共、雑談はそこまでだ。ジュロメの街が見えたぞ。」
 そう言って丘の上からヘクトールが顎で指した方向には、ジュロメの街が一望できた。
「今日はここで休んで、明日の夜明け前に作戦を決行する。」
 全員がそろった所でヘクトールがそう言うと、全員がうなずいて野営の準備にとりかかった。
 これまでの2日間そうしてきたように、男達は薪を探しに行き、メイと妹達は食べられる野草や果物を探しに行った。
 しかし、前日までとは違い、エドはメイ達と一緒に行かず干し肉などの下ごしらえをしているクロエの後ろをちょろちょろしていた。そんなエドが気になって、クロエは、岩の上で食材を切っていた手を止めて振り返った。
「あの・・・。」
「うん?」
「見ていられると、作業がしづらいのですが。」
「あ、ごめんね。そうだよね、邪魔だよね。」
 そう言って、エドは少し離れたところに移動するが、クロエはやはり背中に視線を感じていた。
「何か御用ですか?ご要望があれば出来る限り取り入れますので、なんでもおっしゃってください。」
「いや・・・その。わたし城の手伝いをしていた時から料理って全然だめでさ。出来れば勉強したいなあと思って。で、その。クロエの料理が美味しかったから、技術を盗みたくて。」
「そういうことでしたら、最初からそうおっしゃってください。ですが、エーデルガルド様自ら料理などされなくとも、必要であればメイドやシェフにお申し付けになられればよろしいかと。」
「それじゃ意味ないんだ。その・・・できれば、大切な人達に日頃の感謝を込めて、自分がつくった料理を食べてもらいたいなと思って・・・さ。」