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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 2 御前試合

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 メイは今度はその手紙を破くことなく、最後まで読み切りヘクトールへ渡した。
 手紙に書かれていたのはこの次にアレクシス軍が攻略することになるジュロメ砦の現状だった。
 ジュロメでは、街の女子供を人質に取り、男たちを強制的に徴兵し、守りを固めている事。
 人質である女子供を開放し、街の男たちも開放して欲しいということ、それに人質が囚われている場所などが書かれていた。
「リルも人質に?」
「はい。リル姉さんは私達だけなら抜け出せるからと、この手紙を持たせて秘密の通路から逃してくれました。」
 手紙を読み終わったヘクトールの質問にジュラが答える。
「ふむ・・・助けに行きたい所だが、正面から行けばすぐに見つかるだろうし、かなり大回りをして砦の裏側から入る必要がある。見張りは全部で2、30らしいが、すべて人間ではないと書いてあるし、大人数では目立つことを考えると少数精鋭でそれなりに腕の立つ面子を連れて行く必要もある。これはアレクシス殿下やアンに了承を得る必要があるな。」
「あ、わたし行く。」
「そんなに軽く言われましても。」
 手を挙げるエドに、ヘクトールがため息をつく。
「自分で言うのもなんだけど、私、結構腕立つよ。」
「ですが・・・。」
「連れていってくれないなら一人で行く。女子供を人質にするような奴許せないし見過ごせない。」
 そう言って笑うエドの目は、義憤に燃えていた。エドの父であったリシエール国王も、よくこういう目をしていて、こうなったときは何を言っても聞き入れてもらえなかったことを、ヘクトールは思い出していた。
「リルは死ねばいいと思うけど、身内が絡んでることでエドに行かせてあたしが行かない訳にもいかないしね。」
 続いて手を上げたメイの顔にも、説得は無駄だと書いてあるのを見て、ヘクトールはため息をついた。
「・・・仕方ない。では俺も行くとして、あと3、4人程アン達に頼んで人を出してもらうか。」
 エドとメイの説得を早々に諦めたヘクトールはそう言ってため息をついた。
「そういえば、メイとヘクトールの関係って聞いたことなかったよね。そもそもヘクトールは、滅多に人前に出ないって言われているケット・シーのメイとどうやって知り合ったの?」
「あ、わたし知ってる。おじちゃん、メイお姉ちゃんのこと買ったんだよね。」
「そう言われると、なんだか人聞きが悪いんだが。まあ、奴隷商人の組織を潰すときにアンと一緒に囮捜査をしていてな。もう大分前の話になるが・・・。」
 ジュネの言葉に眉をしかめながら、ヘクトールが頷いた。
「大分前ってどのくらい?」
「あれは確か・・・十二年前位だったか?」
「うん。そのくらいだにゃ・・・なつかしいにゃあ。あの頃のヘクトールは男盛りでかっこ良かったなあ・・・」
 しみじみと腕組みをしながら言うメイの様子にヘクトールが苦笑する。
「逆にメイはあの頃から全然変わらんがな。」
「そっか。ケット・シーって寿命長いもんね。そういえばメイっていくつなの?」
「ああ、エーデルガルド様はご存知ありませんでしたか。さん・・・っ・・・メイ。何をするんだ。痛いじゃないか。」
 いきなり殴られた事に抗議するヘクトールを無視して、メイはエドに微笑みかける。
「二十一よ。」
「え、同い歳?でも、最初に会った時から・・・」
「二十一歳。わかった?」
 エドは、有無を言わせない迫力を持った笑顔のメイに気圧されるようにしてうなずいた。



「よし、ならば僕が行こう。」
 エド達の話を聞いて開口一番そう言って立ち上がったアレクシスの頭を後ろに立っていたアリスが拳で殴って座らせた。
「貴方はバカですか。総指揮官をこんな作戦に参加させられるわけがないでしょう。」
「ちょっとアリス、言いたいことはわかるけど、アレクシス様の頭をバカスカ殴るんじゃないわよ。これ以上・・・じゃなくて。その・・・失礼でしょ。」
 アリス同様アレクシスの後ろに控えて立っていたアリスの妹のクロエが何かを言いかけてあわてて口を抑えた。
(これ以上って言った・・・)
(これ以上って言ったにゃ。)
「・・・こほん。とにかく、アリスの言うとおり、アレクシス様をこんな作戦に参加させるわけには行きません。」
 エドとメイの視線に気づいたクロエは気まずそうに一つ咳払いをすると、すました顔でそういった。
「だがアリス、エドは行くんだぞ。」
「エーデルガルド様は総指揮官ではございません。それに、今回の作戦の指揮をとられるヘクトール殿とは長年親子のように暮らしてきた間柄。そのため連携の面から言っても適した人材です。」
「でも、やはり心配だ。エドに何かあったら大変じゃないか。」
 アレクシスの反論に、アリスは面倒くさそうに眉をしかめて肩をすくめる。
「そんなにご心配ならば、アレクシス様の腹心を参加させればよろしいでしょう。エーデルガルド様をお守りできる人間がここにいるではありませんか。」
「そうか、そうだな。よし、そうしよう。いつも済まないなアリス。リュリュの時に続いて・・・」
「いえ、私は行きませんよ。」
 アレクシスの言葉を遮って、アリスが首を横にふる。
「長期の不在で溜まった仕事もありますし。そもそもリュリュ様を護衛していた間に溜まった休暇も消化したいですし。」
「ちょっとアリス。今の話の流れなら当然あんたが行くと・・・。」
 言いかけたクロエの後ろにまわり、アリスはクロエの両肩に手を置いてにっこりと笑った。
「ですから、クロエが同行します。エーデルガルド様。こう見えて、このクロエはこういった任務にうってつけの魔法をもっておりますので、遠慮なくこき使ってくださいね。ちょっと人見知りですけど、いい子ですから。ほらクロエ、挨拶。」
「ええっ?あ・・・よ・・・よろしくお願いします。」
「アレクシス様、そういうことでよろしいですか?」
「ああ。クロエなら安心だ。頼んだよ、クロエ。」
 アリスの言葉に、アレクシスは深く頷いて微笑み、アレクシスのその表情を見たクロエは頬を真赤に染めて大きな声で返事をした。
「は、はいっ!命に代えても!」
「じゃあ、あとは・・・カズンを行かせるわけには行かないし、ルーに行ってもらおうかな。」
「ルー・・・って誰?」
 エドはアレクシスの口にした名前に聞き覚えがなく、首をかしげた。
「ああ、エドはまだ会ったことがなかったね。ルーファスと言って、中距離の戦闘のスペシャリストなんだが、いかんせん方向音痴でね。ようやく昨日アミサガンに到着したんだよ。」
「アレクに言われるなんて、相当なんだね・・・。」
「ああ、彼の方向音痴は僕のなんて可愛く見えるくらいに・・・」
「五十歩百歩ですよ。」
 アレクシスの言葉を遮るようにして、アリスがため息混じりに言った。
「いや、そんなことないよ。ねえ、クロエ。」
「・・・私の口からは申し上げられません。」
 アレクシスはアリスに反論しようと、クロエに同意を求めるが、クロエは申し訳なさそうに顔を背けた
「・・・いや。本当に僕はルーほど酷くないんだよ。」