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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 2 御前試合

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「な・・・なんで。どうしてこんなことになってるの?」
 兵士に追われて逃げ込んだ路地裏の石畳の上に座り込んで、息を切らせたキャシーがレオに尋ねる。
「俺が知るか!」
 キャシーほどではないものの、やはり息を切らせながらレオが答える
「うー・・・またお腹すいてきたよ・・・。」
 緊迫した雰囲気の二人をよそに、ジュネがお腹をさすりながら情けない声を出す。
「さっき食ったばっかりだろ。少し我慢しろ。」
「いたぞ!こっちだ!」
 路地の入り口で兵士が叫び声をあげ、突入してくる。
「うわ、見つかった!」
「逃げるぞ!」
 レオはキャシーとジュネの手を引いて走りだす。重い鎧を纏った兵士と、軽装のレオ達。そのスピードの差はかなりのもので、みるみるうちに兵士が遠くなっていく。そして路地の出口が見えた所で、レオが突然立ち止まった。
「あたっ!」
「いったー・・・どうしたのレオ、急に止まって。」
 ブレーキをかけきれずにレオにぶつかったジュネとキャシーが声を上げた。
「・・・少女を誘拐してオークションにかける誘拐団がいると聞いて来てみれば、まさか君たちだったとは・・・。」
 はあ、とため息をつきながらオリガがそういって言って首をふった。
「ゆ、誘拐?誤解だオリガ、俺たちは・・・」
「問答無用!恥ずかしいと思わないのか二人共!共に戦ったかつての仲間が誘拐団などと・・・私は情けないぞ。」
「いや、話聞けよ!俺たちはそんな誘拐とかそういう・・・。」
「では何故、少女を連れている?その少女はどうした?」
「俺たちは・・・ああもう。ジュネお前から事情を話したほうが早そうだ。」
「えっと・・・ジュネはね、レオにご飯をごちそうになったからついて行ってるの。それだけだよ。」
「な?聞いたとおりなんだよ。誤解なんだ。俺たちはただ・・・。」
「聞いていた手口と同じ・・・やはり二人が。」
 オリガは唇を噛み締めてうつむいた。
「オリガ、違うのよ。話を聞いて?」
「私を懐柔する気か!その手には乗らないぞ!」
 そう言ってオリガは槍を構えた。
「残念だがこうなってしまったからには、せめて私の手で君たちを捕らえる・・・それが仲間としてのせめてもの情け。キャシー、君はレオにそそのかされただけかもしれない。しかし罪は罪。そしてその罪は贖わなければならない!」
「・・・お前が俺のことどう見ているかってのは、よーっくわかった。おい、キャシー、ジュネ。俺の手を握れ。」
「え・・・?」
「はやく!」
 レオの語気に押されて二人がレオと手をつなぐと、突然オリガが動かなくなった。
 キャシーが後ろを振り向くと、走っている兵士も停止していた。
「なに・・・?これ。」
「俺の魔法。頑張っても一回十秒がいいとこだからこのバカの横を一気に走り抜けるぞ。」
 レオに手を引かれた二人はそのままオリガの横を素通りし、路地からちょっとした広場へと走り出た。
 そして、丁度そのタイミングでレオの魔法が解けた。
 広場には、大勢の兵士がおり、その中には見知った顔も混じっていた。
「く・・・。」
「レオ君・・・」
 兵士の一団の中から歩み出て、レオの正面に立ったソフィアは少し寂しそうな、悲しそうな顔でレオを見つめた。
「・・・ソフィア。お前は信じてくれるよな?」
「うん・・・大丈夫、わかってるよ。大丈夫だからね。」
 そう言って武器を捨て両手を広げて、微笑みながら近づいてくるソフィアを見て、レオは自分の涙腺が緩むのを感じた。
「ソフィア・・・すまねえ・・・今まで俺、お前にひどい事ばかり・・・」
「ごめんね、レオ君がそんなにお金に困っているって気づいてあげられなくて。大丈夫、私、レオ君が罪をつぐなって出てくるのずっと待っているから。だから自首して?」
「徹頭徹尾全然信じてねえじゃねえか!」
「レオ、君がさっき僕らを遠ざけたのは、こういうことだったんだな。あの時気がついていれば、君たちとこんな再会を果たさずに済んだだろうに・・・。」
 アレクシスがそう言って悔しそうにうつむいて拳を握った。そして顔を上げてレオを見ると、大きな声で叫ぶ。
「今ならまだ間に合う。レオ!自首するんだ!」
「うるせえ!誘拐なんかしてねえって言ってるだろ、このバカ皇子!こいつにちゃんと事情を聞いてみろ!」
 レオがそう言ってジュネを前に引っ張り出した
「おい、ジュネ。言ってやれ、お前が俺たちに誘拐なんかされてないってことを!」
「えっと・・・ジュネは誘拐なんかされてないんだよ。親切なおにーさんとおねーさんにご飯を御馳走になって、妹を探すのを手伝ってもらっていただけなのです。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「ほらみろ。」
 ジュネの言葉を聞いたアレクシスとソフィアはぽかんと口をあけた。
「だってジュラが姉は誘拐団に攫われたって言っていたんだが・・・。」
「そうだよ!それでわたしたち皆でお城を出て探しにきたんだから。ね、ジュラちゃん。」
「いいえ。私は誘拐団がいるに違いないと言っただけです。これだけ探しても見つからないのはきっと誘拐に違いないと。誘拐されたとは一言も言っておりませんが。・・・ああ、でも前に別の姉が攫われた話はしました。」
「・・・・・・。」
「おい三馬鹿。俺に対して言うことはないのか?」
「・・・レオ君の普段の行いのせいだと思うんだ。」
 ソフィアがそう言いながら目をそらす。
「そ、そうだな。私もそう思う。」
「よかった・・・攫われた少女はいなかったんだな。よし、全員撤収。いい訓練になったな。はっはっは。」
「誰一人謝らねえのかよっ!」
 レオの叫びは広場に虚しく響き渡った。

 その後、ジュネとジュラの探し人はすぐに見つかった。
 兵士たちと共に城に戻った所で、ジュネがすぐに姉を見つけたのだ。
 ジュラも「ああ、この人です。ご飯につられて誘拐されたの。」と要らぬことを言って姉に殴られた。
「ご・・・ごめんにゃー。妹たちが迷惑かけたみたいで。」
 事情を聞いたメイは珍しく方々でペコペコと頭を下げて回った。
「メイに妹が居たなんて全然知らなかったなあ。・・・ヘクトールは知ってた?」
 サロンでお茶を飲みながら、エドが対面に座ったヘクトールに尋ねる。
「ええ、話だけは。メイの姉には会ったことがあるのですが、妹達に会うのは初めてですね。」
「お姉さんも居るんだ。いいなあ、お姉ちゃん。あこがれるなあ。」
「・・・そんないいもんじゃないし。あのバカ姉は本当に性格悪いんだから。」
 そう言ってメイがヘクトールの横でアイスティを啜った。
「ああ、そうでしたメイ姉さん。その性格の悪いリル姉さんからお手紙をあずかってきたのです。」
「リルから?」
 ジュネの差し出した手紙を受け取ると、メイは早速封を開けて中の手紙を取り出した。

 未だに独身で、実らぬ恋を追いかけている哀れな妹へ。

 最初の一文を読んで、メイは手紙をビリビリに破り捨てた。
「ちょ・・・ちょっとメイ?」
「あ、しまった。」
「大丈夫です。こんなこともあるだろうと、リル姉さんはもう一通手紙を持たせてくれました。」
 ジュラはそう言いながらもう一通同じ手紙を取り出した。