グランボルカ戦記 2 御前試合
「待ってくれエド、何を怒っているんだ?」
「・・・・・・。」
後ろから呼ぶアレクシスを無視して、エドはずんずんと街の中を歩いてく。
そんなエドの後ろをついていきながらアレクシスは声を上げ続ける。
「僕が何かしたのか?だったら謝る。だから機嫌を直してくれ、エド。」
エドが怒るのも無理は無い。そもそも、アレクシスはキャシーに気を使いすぎなのだ。
一緒にいた時もそうだったが、別れてからも、しきりに「キャシーは大丈夫だろうか。」「キャシーには悪いことをしてしまった」と彼女の事を気にかけているのだ。アレクシスからすれば、それはリュリュの家庭教師を頼んだ相手に対しての気遣いでしかないのだが、エドからしてみれば、自分と二人でいるのに、他の女性の心配をしているようにしか見えない。
そもそも
「アレクはさ、この間、わたしに結婚してくれとか何とか言ってたじゃない!なのに舌の根も乾かないうちに、よりによって私にとって妹みたいなキャシーに乗り換えるってわけ?ホント最低!」
もちろん、エドはこのやり取りの際に行き違いがあって自分がアレクシスを振ったという認識は持っていない。
「いや、そんなつもりはないけど。大体その話はエドが・・・。」
「わたしが何?」
「おとりこみ中、申し訳ありません。」
静かながらもよく通る声に、アレクシスとエドは言い合うのをやめて声のした方を向いた。
「人を探しております。お手伝いいただけませんでしょうか。」
声の主はどこか冷めたような印象を受ける、つり目の少女だった。
「人探し・・・?」
「はい。姉を探しております。」
「お姉さんとはぐれちゃったの?」
エドがしゃがんで少女の目線で問いかけると、少女はふるふると首を振った。
「と、言うより姉がわたしからはぐれたのです。しかし、もうはぐれてから4時間ほど経っておりまして、おそらくそろそろ姉の空腹が限界を迎えると思われます。時間の猶予がございません、是非ご助力を。」
「えっと・・・そんなに深刻になるほど長い時間食事を取っていないの?」
「いいえ、4時間前に一緒に食べました。わたしが会計を済ましている間に姉がどこかにいってしまったという次第でして。」
「じゃあ、定期的に食事を摂って薬を飲まないと命に関わるとか?」
「いいえ。そんなことはありません。」
「だったら、そこまで急がなくてもいいんじゃない?確かに心配ではあるけど、この街から出なければそんな・・・。」
「いいえ、都会には幼女をかどわかす輩が居ると聞きます。そして姉は空腹時にご飯でつられてしまったら間違いなくかどわかされるでしょう。そして、きっとオークションにかけられて売られてしまうのです。・・・実際そういう姉もいたと聞きます。」
(変な子だ・・・)
(変わった子だ・・・)
少女の話を聞いたエドとアレクシスはそれぞれ心の中で少女についての感想を述べた。
「助けて、もらえませんでしょうか?」
手を胸の前で組んで懇願する少女に、アレクシスはリュリュを、エドはまだ可愛かった頃のユリウスを重ねあわせた。
「大丈夫。私達に任せておいて。ね、アレク。」
「ああ、リュ・・・じゃなかった。可憐な少女の頼みだ。僕が断るわけがないだろう。」
二人は良くも悪くも、お兄ちゃん、お姉ちゃんである。
作品名:グランボルカ戦記 2 御前試合 作家名:七ケ島 鏡一