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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 2 御前試合

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 結局御前試合は中止となったが、予選を勝ち抜いた人間はエリザベスとランドールを除けばすでに主要なメンバーばかりであったこともあり、人材登用のために試合を続ける必要もなく、データもすでに出揃っていたため、ルチア達セロトニア商船団の職人達は翌日から作業に入った。
 それから一週間。ランドール戦で自身の未熟を嫌というほど思い知らされたレオとアレクシスは合同で特訓を始め、それに触発されたジゼルがエドとソフィアを巻き込んでこちらも特訓を開始し、他にも各々特訓をはじめるものが多数出てアミサガンの街にはちょっとした特訓ブームが到来していた。
 そんな特訓ブームの中、浮かない顔をして階段に座り、城の中庭で特訓している人間をぼんやりとみている兵士が一人。
 オリガである。
 彼女は御前試合の予選一回戦で、自身の魔法である脚力強化が元で場外に落ちるという失態を犯していた。
 特にそれについて誰かから叱責を受けたというようなことはない。だが、叱責がないということはつまり『自分は叱責にも値しない存在なのではないか』という思いがオリガの心の中に渦巻き、他の皆のように特訓に打ち込むという気にもならずにいた。
「村に・・・帰ろうかなあ。」
 朝から数えて何度目になるかわからないつぶやきとため息を発した時だった。
「バカ。猫の手も借りたいくらいに忙しい時に何言ってんのよ。」
「あ、アンドラーシュ様!」
 いきなり後ろからかけられた声にオリガは慌てて立ち上がり、振り返って敬礼をした。
「ああ、いいからいいから。ちょっと隣に座りなさいな。」
 そう言ってアンドラーシュは階段に腰掛けるとポンポンと自分の隣を叩いた。
「し、失礼します。」
 オリガは上ずった声で緊張気味にそう言うとアンドラーシュの隣に座った。
「で、何でこの人手の足りない時期に故郷に帰るなんて馬鹿なことを言っていたわけ?」
「それは・・・この間の御前試合で、私はあまりにも不甲斐なく・・・」
「ああ、アタシも見ていたけど、たしかにあれは不甲斐ないというか、みっともないというか。」
「・・・・・・」
 アンドラーシュの言葉にオリガは唇を噛み締めてうつむいた。
「でも、たまたま勢い余って落っこちただけでしょ。それで故郷に帰るとか言われてもねえ。」
「ですが・・・」
「まあ、たしかにあなたには重装兵は向いてなかったのかもしれないけど。」
「・・・っ」
「だからって別に気にすることはないわ。これからは・・・あ、ちょっと待ちなさいオリガ。オリガ!」
 叱責を望んでいた部分も確かにある。この一週間、『やめてしまえ』と言われたほうが気が楽だと思ったことも一度や二度ではない。 しかし、そんな叱責を望んでいながらも、彼女はこの仕事に愛着があった。
 脚力の強化などという、本来はその魔法を生かした戦い方を望まれる魔法を持ちながら、その制御が出来ずレオやエドのようなフットワークが使えないオリガにとって、重装兵は理想的なポジションだった。
 鎧が砕けない限り脚力強化で踏ん張っている足は何者の攻撃にも揺るがず攻撃を受け止めることができる。このポジションに居る限り自分は必要としてもらえる。そう思っていた。実際この戦争が始まってから何度かあった皇帝側のデミヒューマンとの小競り合いの中でも他の重装兵が押し返される中、オリガだけがその場にとどまり槍を振るい続けたことも一度や二度ではない。叱責されるかもしれないと思いつつも、重装兵が向いていないとまで言われることはないと、オリガはそう思っていた。
 だから、アンドラーシュにやめろと言われるのをじっとして聞いていることができなかった。
 いまここで逃げ出したところでどうにかなるものではないことは、オリガ自身が一番良くわかっている。
 しかし、オリガはこの場を逃げ出さずにはいられなかった
「ああ、もう。あの子ったら逃げ足が早いんだから。」
 あっという間に直線の廊下を走りぬけ、視界から消えたオリガを見てアンドラーシュはため息混じりの苦笑を浮かべた。

「オリガ。」
 アンドラーシュのところから逃げ出したオリガはアリスに呼び止められて慌ててブレーキをかけた。
 しかし加速のつきすぎていたオリガはアリスの前を20メートルほど通り過ぎたところでやっと停止した。
「どうしたの、そんなに慌てて。」
「アリス・・・どうしよう。私、クビになるかもしれない。」
「・・・はぁ?」
 オドオドと取り乱す友人を前に、アリスは大げさなくらいに怪訝そうな表情を浮かべた。
「とりあえず、なにがあったのか話してみてちょうだい。」
「実は・・・」
 アリスはオリガの話を聞いて大笑いした。
「あはははは。ないわよそんなこと。アンがあなたをクビにするなんてことあるわけないじゃない。」
「なんでそんなことがアリスにわかるんだ。アンドラーシュ様は私のことをみっともないとおっしゃったし、それに今だってお話の最中に逃げ出してしまったし。ああ・・・絶対呆れられた。」
「まあ、呆れはしたかもしれないわね。」
「やっぱり・・・どうしよう。」
 そう言いながら頭を抱えるオリガを見てアリスは再びくすくすと笑いをこぼす。
「まあ、そんなに深刻に考えなきゃいけないような話でもないけれど。それよりオリガ、一つ教えて欲しいのだけど、いいかしら。」
「うん・・・何?」
「あなた、アンの事好きでしょう。」
 オリガはアリスの質問に答えずに、アンドラーシュの時同様逃げ出そうとしたが、一瞬アリスのほうが早くオリガの襟首を掴んで後ろに引き倒した。
「あらあら、逃げ出したりしたら、アンの事好きだって言っているようなものじゃない。」
「は、離してくれアリス。」
「え?話す?アンにこの事話すの?」
「そういうことじゃなくて・・・」
「別にここから逃げ出してもいいけど、そうしたらアンに全部話しちゃおうかしら。」
「う・・・。」
「観念して言ってしまいなさいよ。アンの事好きなんでしょう?」
「私は・・・別にそういうやましい気持ちでアンドラーシュ様のことを見ているわけではなく・・・その、純粋に憧れているんだ。」
 顔を赤くしてわたわたと手振りを交えて説明するオリガの様子を微笑ましく眺めながらアリスが口を開く。
「やましいっていうのは、例えば私とユリウスみたいな?」
「そ、そんなこと言ってないだろ。大体私はあんな噂は信じてない。」
 アリスの言葉を聞いたオリガは即座に否定する。オリガの言う噂というのは、アリスが身体を使ってユリウスを籠絡し、リシエールの王妃の座を狙っているという噂だった。
 もちろんアリスを知っているものはだれもそんな噂を信じてはいなかったが、アリスは少し困ったような表情で首を振った。
「でも事実でもあるわ。勉強を教えているだけではなく、私はユリウスとお付き合いもしているもの。」
「アリス・・・」