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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 2 御前試合

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 クロエ同様何が起こったのかわからず、会場の観衆が静まり返る中、ヴィクトルの声が上がりそれを契機に会場中から歓声が上がった。その声で我に帰ったクロエは慌てて舞台に登ってレオに食って掛かる
「この卑怯者!変態!」
「はぁ?お前は何度も魔法使っていただろ。それに対して俺が使ったのは一回だけだぜ。それで卑怯とか言われてもな。」
「別に負けたことに対して言っているんじゃないわよ!どさくさにまぎれて、あんたその・・・あたしのむ・・・胸。さ、触ったり・・・。」
 クロエはそう言って顔を赤くするが、レオは首をかしげながらあっけらかんとした様子で口を開いた。
「は?胸?あばらだろ?」
「っ!」
 ガン。と、いい音を立ててレオはクロエに鉄扇で殴り倒され、クロエは肩を怒らせながら舞台を後にした。
「・・・あれが胸とか、状況が深刻すぎんだろ・・・。」
 レオは舞台の床に寝そべったまま友人の深刻な身体の悩みに心の中で涙した。
「ほら、レオ。はやくどきなさいよ。次の試合ができないでしょ。」
 次の試合に出るために舞台に上がったジゼルは、心優しい男、レオの脇腹に蹴りをくれてそう言い放つ。
 起き上がろうと仰向けに姿勢を変えてジゼルを見上げたレオの視線の先には大きな双丘があり、レオの位置からではその双丘が邪魔をして彼女の顔が見えなかった。
「・・・なあジゼル。俺、クロちゃんが不憫で不憫で。」
「は?何の話よ。」
「格差社会って言うやつ。」
「よくわかんないけど、そういうのはあたしやリュリュやアレクが考える事でしょう。あんたが考えなくても良いことよ。」
「いや・・・まあいいや。次の試合頑張れよ。」
 そう言って立ち上がるとレオは舞台を降りて控え室へと続く通路へと消えた。
「さて、と。こうして手合わせするのも久しぶりよね、エド。」
 レオと入れ替わりに舞台に上がったリシエール仮面ことエドに向き直ってジゼルが口を開く。
「確かに。二月ぶりくらいになるかな。魔法抜きで予選を勝ち抜いたところを見ると、剣の腕は鈍ってないみたいだね。」
「当然。あの程度の予選で魔法なんか使う必要ないもの。それにあなたの風と違って私の爆発は使いづらいのよ。」
「私の風だって別に使い勝手がいい訳じゃないんだけど。・・・魔法はどうする?」
「使いましょ。確かこの舞台の上では魔法も攻撃も死なない程度に威力が軽減されるんでしょう。万が一怪我をしても治療班がいるし、たまには思いっきりやるのも悪くないわ」
 準備運動をしながらジゼルが言い、エドもそれが良いと頷いた。
「うん。じゃあ本気で行くよ。」
「どこからでもおいでなさいな。」
 二人はゲームでも始めるかのような気軽さで笑い合うと剣を抜いて対峙した。
 手数で押し切るタイプのエドはショートソードの二刀流。
 対して一発勝負の好きなジゼルの武器は一般的な片手剣よりもやや刀身が長く反りがついていて、両手持ちもできるよう柄も長めに作られた、大昔に東方のとある剣豪が使っていたという物のレプリカだ。
「相変わらず使いづらそうな長さだよねえ・・・。」
「あんたのほうは相変わらず取り回しだけはよさそうね。」
「いやいや、取り回しって大事だよ。」
 そう言って、エドは舞台を蹴ってジゼルの方へと跳ぶ。
 長い得物の弱点である間合いの内側へ入られそうになったジゼルはエドを牽制するように横薙ぎに剣をふるって後ろに飛び、間合いを広げる。
 後に飛んだジゼルに向かってエドが剣を振るうと、風の刃がジゼルに向かって襲いかかる。
「はぁ・・・まったく。ちょっと待ちなさいよ。」
 ジゼルがそう言ってため息をつきながら人差し指で風の刃の軌道をなぞるようなジェスチャーをすると、爆発が起こり風の刃が霧散する。
「まったく、まだヴィクトルは試合開始って言ってないじゃない。」
「あ、そうだっけ。じゃあヴィクトルさん。合図お願いします。」
「・・・・・・。」
「ヴィクトルさん?」
「・・・勝者、ジゼル。」
 ヴィクトルがおもむろにジゼルの手を掴んで上に持ち上げそう宣告する。 
「え・・・えええっ?な、何で?」
「何で。ではありません。開始の合図前の不意打ち。これは完全な反則負けです。」
 判定に食って掛かるエドを意にも介せずヴィクトルははっきりと判定を下す。
「でもほら、ジゼルと私の間ではそういう空気になってたっていうか、ジゼルだって怪我してないし、仕切り直しってことでいいんじゃないですか。」
「あいたたた。先程後ろに飛んだ時にわたしくし足を挫いてしまいましたわ。これは治療をしないととてもでは無いですが試合になりませんわね。誰かさんの不意打ちのお陰で。」
 そう言っていきなりしゃがみこんだジゼルが自分の足首を抑えながら、ニヤニヤとした視線をエドに向ける。
「な・・・ジゼルずるい!嘘だ!」
「嘘じゃありませんわよ。」
「嘘だ!」
「嘘じゃないわよ!」
「・・・・・・。」
「あーあー、ジゼルはいつもそうだよ。楽な方楽な方に逃げてばっかりでさ。」
「人聞きの悪いこといわないでちょうだい!状況をうまく利用しているだけで逃げているわけじゃないでしょ!」
「逃げだよ!」
「立ち振舞いが上手いだけよ!」
「・・・いい加減にせんか!」
 試合の事などそっちのけで、どうでもいい口喧嘩を始めた二人に、ヴィクトルの怒号が飛んだ。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
 ヴィクトルに怒鳴られてエドとジゼルが驚いて口喧嘩を止めた。
「失礼。とにかく判定を覆すつもりはありませんので、口喧嘩をされるのあれば控え室でどうぞ。後がつかえておりますので。」
「・・・はい。」
「・・・ごめんなさい。」
 以前にも二人で喧嘩をしていてヴィクトルに怒鳴られた事があったなあと思い出しながら、舞台を降りようとしていたジゼルとエドは顔を見合わせて笑った。
「確か前にもこんなことがあったわよね。」
「そうそう。あの時もジゼルがずるをしようとして・・・。」
「だから、ずるじゃなくて立ち振舞だと言っているでしょう!」
「ウオッホン!おふたりとも、観衆の前でお説教をしたほうがよろしいですかな?」
「・・・ごめんなさい。」
「・・・すぐ降ります。」
 舞台の階段を降りてきた二人に次の試合の為に控えていたアンドラーシュとヘクトールがねぎらいの言葉をかけてきた。
「ごめんなさい。負けちゃった。」
「別に気にしなくていいわよエド。手数で押したほうが良いっていうのは、ちゃんと次の試合であたしが証明してあげるから。」
「何を言っているんだアン。一対一の勝負は一撃必殺。これに限るということを次の試合できちんと証明してやろうじゃないか。なあ、ジゼル」
「ええ。しっかりね、師匠。」
 元々剣についてはヘクトールがエドを。アンドラーシュがジゼルを教えていたのだが、お互いにどうにもかみ合わない。
 エドは力が強い方ではなく、それをごまかすように手数を使って押してくる。
 逆にジゼルは、生来の無駄を省く性格(怠け者とも言う)が災いして、手数で押す戦い方を教えようとするアンドラーシュの手を最低限の動きでいなし、攻撃の合間を縫うようにして、いい一撃を繰り出すことが多かった。